企業紹介

Vol.2
脇役だが下請けではないものづくり

父に学んだチャレンジ精神

-菓子種(かしだね)の専門メーカーとしては全国でトップ規模になります。

和菓子の世界で、もち米で作った菓子材料のことを「種もの」といいます。最中の皮やふやき煎餅(せんべい)が代表的なものといえます。加賀で作った菓子種を「加賀種(だね)」と呼び、京都で作った菓子種は「京種」と呼んでいます。現在、当社で種ものを納めさせていただいているのは、北海道から沖縄まで全都道府県におよび、約3000社がお客さまです。北陸3県は全体の2割ほどを占め、京都が最も多いでしょうか。

-加賀種食品工業の種ものがこれほどまでに全国に広がったのはどうしてでしょうか。

菓子の業界が種ものにこだわりを求める中で、その求めに恥じないよう材料から製品づくりまで一貫してこだわってきたことが評価をいただいたと思っています。1977(昭和52)年、静岡市で開かれた全国菓子大博覧会に出展したのが、全国の菓子店に認めていただいたきっかけとなりました。一坪ほどの小さなブースでしたが、菓子種メーカーとしては初めての出展だったのではないでしょうか。お客様にお茶をお持ちしたときだったか、当時、社長だった父(日根野栄蔵氏、現会長)が「(出展に)多額の経費がかかる」と悩んでいたのを偶然、耳にしました。売上が今の10分の1以下の中で、多額の経費を設備投資ではなく、広告宣伝のために使った父の決断には今でも驚きを隠せません。

-当時、なぜ社長はそんな決断をされたのでしょう。

その何年か前に大手アイスクリームメーカーとの契約を打ち切ったのです。どうしても先方の求めるものと当社の間で納める商品の折り合いがつかなかったのですが、売上が落ち込み、父も危機感を覚えたのだと思います。父は清水の舞台から飛び降りた気持ちで決断したのでしょう。家族に仕事のことは話さない父でしたが、偶然、耳にした父の声が今も忘れられません。

-お父様の教えや考えは今も社長の中に根付いていますか。

とにかく筋道を通すのが父の考え方でした。「価格が高くても必要とされるものを作らなくてはならない」「最中のよさはあんこだけではない。皮とあんこのベストマッチが味を引き出すんだ」。そんなことを口にしていた父の考えは私に大きな影響を与えてくれました。菓子だねはどこまでいっても脇役ですが、菓子屋さんの下請けをしているという意識はまったくありません。メーカーとして、お客様とパートナーシップを持って仕事をさせていただいていると思っています。

-品質のこだわりがよい製品を作り出しているように思えます。

よい種ものを作るには、原料5割、製法3割、あとの2割は作る者の心だと考えています。原料選びにはこだわりを持っています。父が全国各地のもち米を試した結果、富山県が発祥地とされる「新大正もち」と呼ばれる品種が最適であると特定しました。新大正もちは、富山県に加え、石川県珠洲市、白山市鶴来町、金沢市二俣町の計4か所ですべて契約栽培により確保しています。そして、種ものに適した原料を用いることで、素材のよさを最大限に生かしてパリッとこうばしく焼き上げる技術が大切す。季節や天候に応じて微妙な調整を行います。お客さまの種ものは3000社それぞれで規格が異なりますが、お客様にとっては最中の皮のわずか数ミリの厚さの違いが大きな違いになるわけですから、焼き上げには十分に神経を使っています。

-製造工程を拝見しましたが、手作業が中心です。

品質を既成の機械まかせにするなど、作り手の都合による合理化は行いません。作る種ものの種類が多いこともありますが、人の手によって一個ずつ検品し、品質の低下を避けています。

-社員の皆さんにはどんな話をされますか。

「社員が安心して働ける会社でありたい」と言っています。特に7割以上を占める女性社員には就業時間を守ってあげることで、家族と子どもを大事にすることができるように努めています。男性社員はほとんどが新卒で入社しており、「楽しんで仕事をしなさい。させられるのでなく、自分で考えて仕事をしなさい」と言い聞かせています。



菓子種を食材として広めたい

-今後の事業展開を聞かせてください。

「piaso(ピアーゾ)」というブランドを立ち上げました。種ものを菓子種だけでなく、食材の一つとして、使ってもらうことはできないか、というご提案です。「piatto(ピアット)は皿を意味するイタリア語で、「piatto de riso (ピアット ディ リーゾ)」で米のお皿を意味します。ここから「ピアーゾ」と名付けさせていただきました。今までのあんこを包む皮ではなくて、洋菓子や料理にも使ってほしいと考えて、従来の和菓子部門とは別の営業部隊を設けて、ホテルや料亭、農協、牧場などにもご提案させていただいています。父がよく「和菓子屋さんに営業して、どこか(同業者)の仕事をとるようなことをしてはいけない」と言ってましたが、新しい市場を開拓するのであれば、誰も痛まない、みんなが楽しくなれるのではないかと信じて取り組んでいきます。

文:加茂谷慎治、写真:木和田里美、動画:相羽 大輔

取材日:2010年7月27日

編集後記

石川県は加賀百万石で培われた茶道を基に菓子文化が発達し、「菓子王国石川」といわれます。総務省の家計調査によると、石川県は一世帯当たりの和生菓子の年間消費額は全国一となっています。それを支えるのは、菓子店であり、現材料を作るメーカーの技と心です。 製造現場を見て驚いたのは、手作業の多さ。ラインで製品が次々と運ばれてくるという場面を想像していただけに一つひとつの製品を手に取り確認する作業に「こだわり」を感じました。「種もの」といわれる素材を専門に、原料を厳選し、決して手を抜かない。全国各地のお土産などで口にする菓子の「種もの」が実は金沢で作られている。「菓子王国」の言葉に私たちも誇りを感じた取材でした。(加茂谷慎治)

会社概要

企業名 加賀種食品工業株式会社
会社所在地
石川県金沢市春日町8番8号
創業 1877年
会社設立 1953年
従業員 約200名
事業内容 菓子種製造販売
URL http://www.kagadane.co.jp/

社長プロフィール

氏名 日根野幸子(ひねの・さちこ)
生年 1953年
経歴 金沢女子短期大学(現金沢学院短期大学)卒、加賀種食品工業株式会社入社。2005年、代表取締役社長就任。
趣味 映画鑑賞

手形

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