#09

2017.09.13

コピーのこと、コピーライターのこと、僕のこと

担当ディレクター:久松陽一
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2017年9月13日、第9回は、「コピーのこと、コピーライターのこと、僕のこと」
聞き手は、村田 智ディレクター。

村田ディレクターより
「地方で活躍するコピーライターって、どういう活動をしているのかイマイチよくわからなかったのですが、宮保さんのお話を聞いてコピーライターを身近に感じることができました。」

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コピーライターとはなにか

コピーライターという言葉を聞いて、どれくらいの人がその仕事の内容を正確に想像したり、本質的な役割を説明したりすることができるのだろう。人によっては、そもそもその存在を認識していなかったり、あるいは、キャッチコピーを作るということは知っていても、うんうんと頭をひねっていたら、突然いい語呂の言葉が、空からポンっと降りてくる、そんな直感的で天才的なことを実現できちゃうのがコピーライターだと思っている人もいるかもしれない。

一般的にコピーライターとは、文字通り「コピーを書く人」である。そしてここでいうコピーとは、主に、広告表現における文字伝達のことを指す。さらに辞書に聞くと、コピーには「情報伝達機能を十分に果たすため、正確性、論理性、客観性、説明性、具体性、詳細性などが求められる」のだそうである。

「そういったわかりにくい表現を、わかりやすく一言で伝えるのがコピーライターですね」
と、今回の登壇者、コピーライター宮保真さんは自らの役割を説明する。

「コピーライター」と広告

宮保さんは、1974年生まれの現在43歳。北陸を中心に活動する屈指のコピーライターであり、広告制作会社、合同会社ワザナカ※の代表であり、北陸コピーライターズクラブ※の会長も務める。宮保さんの取り組む仕事は、主に広告を中心に、キャッチコピーや商品説明はもちろん、新聞や雑誌広告で長文を書くこともあれば、取材をしてインタビュー原稿を書いたり、CMソングの歌詞を書くこともある。はたまた、パッケージから広告まで新商品の開発全体をサポートしたり、キャンペーン自体を企画したり、時には、考え方だけを提供し、最終的にコピーを書かない仕事もあるというから、その仕事の幅の広さに驚く。

「共通項があるとすれば、言葉を中心に、クライアントに役立つ仕事をしている、と言えると思います。」

コピーライターといえば、文章を書くだけの人、つまり、できあがった広告デザインの上に最後に言葉を載せる仕事だと考えられがちだ。しかし、宮保さんの関わり方はもっと深く、柔軟だ。

「コピーライターの仕事の流れとして一番シンプルなのは、売りたい商品と広告を出すタイミングが決まっている上で、その商品の広告を作るというものです。けれど、広告を出す以前に、商品を売るために何をすれば良いかと考えるときもあれば、そもそもの商品のコンセプトを考えるという場合もあります。新しい商品を作りたいと考えている段階で呼ばれることもあります。入り口はバラバラです。仕事のスパンも1年かかるものもあれば、3時間ほどで終わるものもあります。」


「菓子工房エクラタン」のショップカード。コピー違いの20パターンがある。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞ノミネート。2014年福岡コピーライターズクラブ(FCC)新人賞受賞。2013北陸コピーライターズクラブ(HCC)賞 受賞。(copywriter /宮保 真、松岡佐和子creative director /宮保 真art director /藤田寿弥子designer /藤田寿弥子 illustrator /藤田寿弥子production /ワザナカ2014)

一般的に、「広告」というと、その表象のインパクトやおもしろさばかりが取り沙汰されるが、実際は、広告や商品自体が伝えたい思いやコンセプト、さらにはそのコンセプトを組み立てていく過程こそがもっとも重要な部分だと、宮保さんはいう。

「例えば、家を建てたいと思って住宅メーカーに行くとします。そこで壁紙の色の話をされたって、『違うでしょ』という話になりますよね。家族がどうで、この先どうなって、それならどんな家が住みやすいのかという部分が大事なんです。正直、今の北陸のデザイン業界でも、いきなり壁の色を話す、つまり表象のところを話してしまいがちです。でも、それは違うなと思っています。コピーライターでもデザイナーでも、表現のコンセプトをつくりあげることが大事だと思いますし、それを出来る人がもっと増えてほしいと思っています。」


左:研声舎のボイストレーニングの生徒募集のポスター。「楽器です」の一言で人をキャッチし、下の生徒募集の文を読んでもらう仕掛け。右:「林恒宏の能楽堂で独り語り」ポスター。「今日、あなたの耳は何を見るだろうか」。 (copywriter /宮保 真creative director /橋本謙次郎art director /橋本謙次郎designer /橋本謙次郎advertiser /研声舎production /ワザナカ) ※合同会社ワザナカ:金沢市にある広告制作プロダクション。2009年設立。コピーライター、グラフィックデザイナー、WEBディレクターが在籍している。 ※北陸コピーライターズクラブ:北陸地域のコピーライターの団体。毎年北陸の最も優れた広告コピーにHCC賞を授与している。

流れて生きる

宮保さんの経歴はなかなか変わっている。

コピーライターと名乗って仕事をするようになったのは、今から約15年前、28歳のときに印刷会社に入社したことにはじまるのだけれど、実は宮保さん、この印刷会社への就職まで、一度もまともに働いたことがなかった。

「ひたすら、お酒を飲んだりパチンコしたりして過ごしてました。いわゆる『残念な人』なんですよ、僕。」 そう自嘲する。

28歳というと、世間一般的には30歳を目前にしたなかなかの良いお年頃で、そこまで定職につかないなんて、なんとものんきなものだと言われるかもしれない。とはいえ、である。人間というのは、そうそう楽観的にできているものではない。怠惰な時が長ければ長いほど人は孤独を感じ、自分と向き合えば向き合うほど、自身の考えの中で迷路に入り込む。

「決してニコニコ笑ってパチンコしていたわけではないです。いろいろと、悶々と考えていたと思います。それが今の仕事に役立っていると思いたいですし、今コピーライターを目指している人には、こういう人間でもコピーライターになれるんだよと伝えたいです。」

子どもの頃から文章を書くことだけは好きだったという宮保さんは、公共職業安定所で見つけたコピーライター募集の求人情報を見つけて応募。晴れて28歳、新人として印刷会社に入社する。もちろん、最初からことがスムーズに運ぶわけではない。

「パチンコに通っていたような人間が働きはじめたわけですが、コピーライターって人に接せずに仕事が出来ると思っていたら、全然違う。当時、社内に物を書く仕事は僕しか担当がいなかったので、あらゆるところに駆り出されました。年間300人インタビューをするとか、多くの人の前でプレゼンするとか。人と接しなくても良いと思っていたので、そのときは本当に嫌なことをさせられているという感じです。」

それでも、その苦い経験が今につながっていると語る宮保さん。その後試行錯誤を繰り返しながら、同社で8年間の経験を積んだ後、今度は、合同会社ワザナカに参加することになる。

「会社員時代、いろいろな理由で悶々としているときに、ワザナカの代表であった橋本さん※に挨拶に行ったら、『それならやめちゃえばいいじゃん、うちに来ればいいじゃん』と言われました。」

なんともライトな感じのするそのお言葉だが、「流されるままに生きるというのが人生のコンセプトだから」という宮保さんは、その流れに乗ってフリーランスのコピーライターとして、ワザナカに合流する。

「橋本さん、砂原さん※ともに力のあるデザイナーさんで、二人と一緒に組んで仕事ができるのが、とても楽しかったです。」

しかし、転機は意外と早くやってくる。ワザナカに合流して2年ほどが経過した頃、代表の橋本さんが抜け、ワザナカ立ち上げメンバーであった砂原さんが抜け、気づくと会社の存続は、宮保さんの進退に委ねられるという状態に。

「僕はワザナカが好きだった。だから、自分が続ければ会社が残る、自分がやめれば、会社がなくなるという選択肢のなかで、じゃあ、社長やろうかなと。」

そうして社長になり5年。日々、予想外の社長業に四苦八苦しながらも、今に至るのである。

ところで宮保さんは、北陸コピーライターズクラブの代表も務めるが、もちろん、その立場についたのも「流れです」と笑う。「会長がいなくなったから、会長になったんですよ」と。

さて、この一見曖昧に聞こえる「流れ」という言葉だが、不思議と、宮保さんという人を表現するときには、とてもしっくりくるように思う。もちろん、いくら流れでそうなったからといって適当に役職をこなしているわけではないし、そもそも適当に社長や会長なんて務まらない。背負うものの重みを重みと感じさせないひょうひょうとした軽やかさと、既存の概念や社会的レールに固執せずその時を楽しめるしなやかさが、宮保さんの魅力であり、多分仕事をする上での強みなのだろう。

「僕は、自発的に動くというより、流れて生きているんで、仕事を進める上で決めている日課とかもなくて、一つ一つ、仕事をしっかりやる、それだけを大事にしています。お客さんに出した時にお客さんが喜んでくれるかどうかが重要だと思っていますし、成果をクライアントに返せるのが良いコピーかなと思います。あとは賞があるので、そこに通ることかな。」

※橋本さん:橋本謙次郎さん。金沢在住のデザイナー。デザケン(有限会社橋本謙次郎デザイン制作室)代表、金沢ADC(KANAZAWA ART DIRECTORS CLUB)会長。合同会社ワザナカの設立者の一人。
※砂原さん:砂原久美子さん。「本と印刷 石引パブリック」店長、グラフィックデザイナー。合同会社ワザナカの設立者の一人。

言葉の人

宮保さんの仕事は前述の通り、コピーライティングから商品開発と幅広い。そして、ここまで幅広くクリエイティブができるからには、クリエイティブディレクターと名乗っても良さそうなものである。けれども、宮保さんのコピーライターとしてのこだわりは確固たるものだ。

「僕は、クリエイティブディレクターのような動きをするときもあえて、コピーライターの領域として動いています。今は、コピーライターは文章を書くだけ、という認識が大半で、一般の企業さんとコピーライターが接点を持つ機会も少ない。それを変えていきたいと思っています。」

その言葉の真意は、想像でしかないけれど、宮保さんはきっと、単にコピーライターが、文章を書くほかにもクリエイティブなことをできるマルチプレイヤーだということを言っているのではないだろう。

「言葉」とは、人々に意識されているよりもずっと広く深く、すべてに関わる存在だ。誰かが頭の中で考えること、あるいはその考えを説明するときに使われるものも言葉である。視覚的なイメージ、あるいは単語、キーワードに意味を持たせ、それらを立体的に浮き上がらせるのも言葉である。情報の伝達ツールでありながら、そこに意味や思いという命が吹き込まれることで、言葉のインパクトは無限に膨らんでいく。

もちろん、コピーライターは、物語として文脈を整理することに長けているだろうし、他の人より多様な語彙を用いて表現できる知識とテクニックを持っている。けれど、それ以上に、毎日言葉と向き合い、それを意識して使っている人たちだ。そして、そんなコピーライターだからこそ、言葉のもつ力を知った上で、物事の背景を汲み取ったり、人びとの曖昧で形のない思いを、熱量を持ったメッセージとして表し伝えることができる。

「コピーライターは言葉を扱う人です」

宮保さんのこの一言は、言葉を扱うコピーライターという存在が根幹から関わることによって広がる、広告表現や、ものづくりの新たな可能性を伝えているように思えるのだ。

話し手
宮保 真(みやぼ しん)
1974年生まれ。2002年より金沢市内の印刷出版会社にて企業・教育機関などの各種広告・広報媒体の企画・制作・コピーライティングに携わる。2010年独立、3年間のフリーランスを経て2013年より広告制作会社(同)ワザナカ代表。現在、北陸コピーライターズクラブ(HCC)会長、東京コピーライターズクラブ(TCC)会員、大阪コピーライターズクラブ(OCC)会員、コピーライターズクラブ名古屋(CCN)会員、福岡コピーライターズクラブ(FCC)会員。2015年より石川県広報コンクール審査会審査員、金沢市広報アドバイザー、(株)宣伝会議主催コピーライター養成講座金沢教室講師を務める。

聞き手
村田 智 ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター(株式会社MONK)


鶴沢木綿子

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