#14

2017.11.24

地方に必要なPRのはなし

担当ディレクター:久松陽一
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、新産業の創出へのキモチとモチベーションアップを目指す、モチモチトーク。

2017年11月24日、第14回は、「地方に必要なPRのはなし」。
聞き手は、久松 陽一ディレクター。

久松ディレクターより
「ご自身の経験を活かし、PRだけにとどまらない手島さんの仕事はとても刺激になります。パワフルで、楽しんで仕事をされる姿はさすがです。まず楽しむこと。勉強になりました!」

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アパレル業界から、PRを生業に

手島シークリンデさんは、金沢市出身。
書道家であり俳人の母と、ドイツ人で世界シェアNo.1の経編(たてあみ)※機メーカー、カールマイヤー社のエンジニアの父との間に生まれた。幼少期から父の作った機器で編んだニット製品に触れる機会も多く、その経験から自然とアパレル業界に興味をもったという。
青山学院女子短期大学を卒業後は、大手ラグジュアリーブランドに就職。銀座の路面店で販売スタッフとして働きはじめる。挨拶から顧客に対する接し方、なにもわからないところからスタートするも、入社1年目で売上No.1を獲得という偉業をなしとげ、その適性は見事に発揮される。
同時にそこではじめて、PRという職種を知ることになり、強く惹かれるように。そして、「どうしてもPRがやりたくて」転職。ドメスティック(国内)ブランドの会社でPRの仕事に就く。
その後、「海外のブランドにも携わりたい」と再度転職。
外資系のブランドを扱う会社で5つのブランドのPRを兼任し、多忙な時期をすごす。
やりがいはあったものの、連日深夜まで続く業務に自分を見失いかけていたそんな頃、以降8年間勤務することになるディーゼルジャパン株式会社から声がかかり、再びの転職を決める。

「ディーゼルジャパンは、本当に働きやすい会社でした。会社の中にバーがあって、夜7時以降は従業員向けに解放されます。面接の時には『どこで遊んでたの?』と聞かれます。プライベートも充実した過ごし方をしているかどうかが一つの鍵という会社なんです。遊んでいる先で人脈も広がりますし、感度も高くなるという考えです。」

そこで手島さんはさらにPRとしての経験を積み、人脈を広げていく。同時に、結婚、出産も経験。復帰しても好きな仕事が続けられる喜びを知ったとも語る。
しかし、二人の子どもを育てる中で、手島さんは徐々にライフスタイルに違和感を抱きはじめる。

「私は幼少時代、自然に親しみながら育ってきました。だからこそ、東京で子育てをする中で、自分が育ってきた環境とのギャップを感じるようになっていったんです。」

本当の豊かさとは何かを考え抜いた末、仕事を辞め、出身地である金沢への移住という一大決心をすることに。そして2015年に金沢にUターン、翌年2016年4月には自身で「OFFICE SCHNEIDER(オフィスシュナイダー)」を立ち上げ、今に至る。

オフィスシュナイダーの主な仕事は、飲食店のプロデュース、企業コンサルティング、セールスプロモーション、ブランディング、SNS運営代行。加えて、手島さん個人に対する依頼を受け、金沢市の移住プロモーション動画や、テレビ雑誌への出演、石川県移住促進のイベントでの登壇、金沢文化服装学院で特別授業実施など、その活動の幅は広い。

なかでも代表的なのは、東山の茶屋街にあるパンケーキショップ「cafe多聞」のPRだ。
共通の友人を介してオーナーのMEGUMIさんに声をかけられ、ショップの立ち上げから店づくりに協力することになったという。

「オーナーの意向は、お客さまにしっかりとしたおもてなしを提供し、『金沢って良いところだな』と思って帰ってもらうことです。そして、また金沢に来たときには来店してもらえるお店を目指しています。私は、お店づくりや、商品開発、人材育成などを担当しています。もちろん専門はPRなので、雑誌や地元のメディアなどにプロモーションし、観光客の方はもちろん、地元のお客さまにも来ていただけるような仕掛けもしています。」

※経編:編み方の一つ。用途はカーテンレース、ランジェリー用レースなどアパレル関連から、カーシート、マットレス、毛布、ぬいぐるみ、漁網、飛行機、土木用資材、人工血管など多岐にわたる。

PRは、地方にこそ適した方法

自身の担う、PRという仕事について
「社会の人に、企業の商品を理解してもらい、ファンになってもらう仕組みをつくること」
と手島さんはいう。同じように、企業や商品のファンを得るためのアプローチとしてよく知られるのが広告だろう。広告とPR。そもそもの目的は同じのようだが、職種としては異なるものだ。一体どういう違いがあるのだろうか。

「広告は、まず制作に費用がかかりますが、基本的にPRにはお金がかかりません。それに、広告は掲載の決定権が広告主(スポンサー、企業)にありますが、PRの場合はメディア側にあります。つまり、情報をメディアに載せるか載せないかはメディア側が判断します。また、広告は主観的なメッセ―ジの発信やイメージづくりを行いますが、PRは客観的な宣伝です。広告はどちらかというと短期的、瞬間的な『花火』のような存在ですが、PRは、例えるなら『イルミネーション』。瞬間的なものではなくて継続的なもので、じわじわ広がっていくものです。」

イベントとしてある一時期だけ打ち上げられる「花火」と違い、いつもそこにあり、人々が見に行き、その体験を語ることで徐々に広がりを見せる「イルミネーション」。SNSの影響力が高まる今の時代、人と人の間で交わされる体感の共有の持つ力は、はかりしれない。
「PRは、『パブリックリレーション(社会と人々の関係)』という意味です。お金を使わずにイノベーションを起こすことができ、消費者も企業側も双方にメリットがあるというコミュニケーション方法です。これは実は、人と人とのつながりが強い、地方にこそ適している方法なんです。」

しかし残念なことに、その適性を生かしきれていない現状があると手島さんは指摘する。
実際、多くの商品やサービスが開発されているものの、地方企業ではそれに対しての多額の広告費用を出すことは難しい。一方、PRという言葉を知ってはいても、何をどうすればよいのかわからないといった場合も多いそうだ。

3つのメディアの連動が、イノベーションの鍵

では具体的に、地方において、どういうふうにPRを行っていけば良いのだろう。手島さんは、マスメディア、ソーシャルメディア、自社メディアの3つのメディアを駆使し、さらにそれらを連動することが重要だという。

マスメディアとは、主に四大メディアと呼ばれる、テレビ、雑誌、新聞、ラジオのこと。マスメディアは言葉の通り大衆のメディアであり、発信すれば社会的な反響も大きい。まず何かPRしたいことがあればマスメディアへアプローチを行うことが最も効果的だとも言える。そして、マスメディアへのPR手段というのが、プレスリリースなのである。


左:プレスリリースの例。車多酒造「shure」の販売に際し実際に配布したもの。
右:手島さんの考える、情報を取り上げてもらうためのプレスリリースの書き方

「何か新しいことを始める時には、まずプレスリリースを作ってください。プレスリリースは、 新商品・新サービスの情報をメディアに知らせるための⽂書のことで、企業とメディアを結ぶコミュニケーションツールです。 広告と違って掲載費を⽀払うわけではなく、情報自体に価値がないと取り上げられません。発信側のセンスが問われるものでもあります。」

ちなみに、プレスリリースは作って終わりではない。商品とプレスリリースを持って、直接メディアに説明に行くことも、PRの一つであるという点は付け加えておきたい。

次に、ソーシャルメディアとは、いわゆるSNS(ソーシャルネットワークサービス)のこと。
代表的なものとしては、フェイスブックやインスタグラム、ツイッターなどが挙げられる。

「キーワードは『5秒で伝わるリアル感』です。15秒じゃ長すぎる。5秒で伝わるような情報をSNSにあげていきます。こまめに情報をUPして、お店であればオープン時に、商品であれば発売当日に行列になることを目標にします。ソーシャルメディアを活用する際は、『フォロワーを何人にする』というような、身近な目標を定めることが大切です。目先の実現しやすい目標を提示しないと、やらないままになってしまいます。」

さらに、自社メディアである。
自社メディアとは主に、自社ウェブサイトや電子新聞、カタログなどである。
「自社メディアは、正確な情報を伝える場です。コンセプト、商品について、お客様に一番伝えたいことを伝える、ラブレターのような存在でもあります。プレスリリースもそうですが、愛を持って書かないと、その想いは伝わりません。」

これらのマスメディア、ソーシャルメディア、自社メディアそれぞれを駆使し、かつ、それらを連携させることが、地方においてPRのイノベーションを起こす鍵になると手島さんは語る。

「マスメディアで紹介した情報を拡散させるのは、ソーシャルメディアです。そしてマスメディアやソーシャルメディアで展開している情報を、さらに詳しく正確に伝えるのが自社メディアです。三つのメディアが連携しているからこそ、商品の良さが、消費者にしっかりと伝わるんです。」

具体的に3つのメディアを連携させた例の一つが、車多酒造の新商品「shure」のPRである。

「まず、発売と同時にテレビ、新聞、雑誌で取り上げてもらえるようにプレスリリースを発信しました。さらに紙媒体だけではなく、『金沢経済新聞』というオンラインメディアにもプレスリリースを提供しました。金沢経済新聞さんは情報を提供すると、取材してオンラインメディアで掲載してくれます。Yahoo!JAPANとも連携しているので、金沢経済新聞に掲載されると自動的にYahoo!ニュースのトピックにあがります。そうすることで、一気に認知度が上がるようになっています。」

その他、自社ウェブサイトでの情報発信はもちろん、出版社が発行している美容系マガジンで、美容ライターに商品を試してもらい、客観的な意見を含めた情報をオンラインメディアに掲載したり、ソーシャルメディアのインフルエンサー(フォロワー数の多いインスタグラマーなど)に商品を紹介してもらうなど、これまでに培った人脈や経験を生かしたPRを行ったという。

「第三者的な立場が入ってのPRであれば、信頼は増します。PRはお金をかけずにやるものなので、メディアとのパイプが太いことが大事です。」

視点を変えてPRする

「PRが上手くいくと、単純に商品が売れるということはもちろんですが、信頼を与えることもできます。例えば、新聞に載っている情報って信頼できますよね。また、組織の活性化という効果もあります。働いている人がいろんなメディアに紹介してもらって、うちの会社ってすごいんだっていう自社に対する思いを持ってもらえます。商品のPRですが社全体のPRにもつながるので、リクルートの面からも、より良い人材が集まるというメリットがあります。」

地方では、商品ができた後にPR方法を考えることも多く、「もったいない」と手島さんはいう。

「商品開発からPRを組み込んでいただきたいんです。例えば、ターゲットを決めるときに、なんとなく40代女性をターゲットにするというのではなく、独身なのか既婚なのかなど、細かく考えます。40代女性すべてにはまるものはないので、名前まで想定します。例えば、白鳥カレンさん40歳、子供は2人。普段はオーガニック食品を好んで買っている人、というように具体的なことです。そして、その人に届けるためにどのような商品を開発し、どういうメディアを使ってPRしていくかを考えるんです。」

さらに手島さんは、金沢には連綿と続く歴史や伝統文化があり、一地域としての十分な魅力を有しているにも関わらず、それをPRしきれていないことを「もったいない」と感じている。

「私は金沢から離れて東京に18年暮らしたことで、金沢が素晴らしいところだとわかりましたが、ここにずっと暮らしている人はもしかしたらそれが当たり前になってしまっているかもしれません。けれども、一つのものを見る時にこれだという固定概念を持ってはいけないと思います。よく見ると違う見方があり、それぞれの良いところが見えてきます。たとえば、冬の北陸には暗いイメージがあったりしますが、実は東京の人は雪の時期に北陸に来たいと思うんです。考え方一つで、ネガティブな部分も、売れる商材になるんです。」

奥ゆかしさは日本の美徳とは誰が言ったことだったか。ついつい「自分の商品をPRなんて滅相もない」「この地域は何もないところですから」なんて言っちゃうのが私たちである。
一方で、インターネットを中心に多大な情報が容易に手に入り、逆に情報が手に入らないものは信頼がないというのがこのご時世。あるいは、情報が溢れているからこそ、何よりも知人や友人の言葉を頼りにするという時代、である。これまで以上に、商品も地域も、自ら自身の情報を開示していくことが求められているのは間違いなさそうだ(もちろん、誰も私の商品なんて買ってくれるな、とか、私たちの町に新しい人は来てくれるなという場合は別だけど)。

なんとなくだけれど、手に取る物も、住まう場所さえも、人々が自ら自由に選ぶようになっている中で、PRという行為に必要なのはきっと、「売り込むぞ」という精神ではなく、「それが何者なのかを、体温のある言葉で、正しく伝えたい」という気持ちなのだろうと思う。
正しく伝わった事実が魅力的であれば、きっと、共感が生まれ確実に浸透する。
冬の寒空の中でも人の心を温める、イルミネーションのように。

話し手
手島シークリンデ OFFICE SCHNEIDER代表

聞き手
久松 陽一 ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター(株式会社 Hotchkiss)


鶴沢木綿子

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