#36

2019.06.25

ブランディング実況中継
〜ブランド担当者とクリエイターが語る
ブランドづくりの 実際〜

担当ディレクター:杉守一樹

毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例など から新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2019年6月25日、第36回は、
「ブランディング実況中継 〜ブランド担当者とクリエイターが語るブランドづくりの 実際〜」
聞き手は、杉守一樹ディレクター。

2000年、地元石川県から都内有名インテリアショップへのOEM供給を中心に展開してきた株式会社ティーズモービレ。2017年には、自社ブランドをTRES THE SOFA TAILOR(トレス ザ・ソファテーラー)としてリブランディングし、インテリア激戦区である東京・青山に直営店を出店。
今や青山店、金沢店、京都店の3つの直営店を展開し、日々試行錯誤しながらブランドづくりに取り組んでいます。

ブランディングとは?という定義論や成功するブランディングプロセスといった方法論は一旦横に置いて、TRESブランドマネージャーである桶さんと、このリブランディングをクリエイティブプロデューサーとして指揮し、今も携わっている広村さんをお招きし、現在進行系のブランドづくりのリアルをお話しいただきます。

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一つの世界、一度の人生、一脚のソファ

T's Mobile(ティーズモービレ)は、2000年に石川県で創業したソファ専門メーカー。
当初は全国のインテリアショップや都内のライフスタイルショップにオリジナルソファを提供していた。
2017年11月、創業以来17年に渡り培ってきたソファづくりの技術とノウハウを活かし、東京の青山に直営店TRES THE SOFA TAILOR(トレス ザ・ソファテーラー)を出店することに。

(桶)「インテリアの激戦区であり、世界の有名な家具店が出店している青山で勝負していくというときに、中途半端なことはできない、ちゃんとブランディング会社と組んで本気でブランディングして出ていこう、ということになりました。」

トレスのソファは3人掛けで50万円以上の価格になる。
ソファは中身が見えない家具の典型的なもので、中身で妥協しようと思えばできてしまうが、トレスでは品質に一切妥協しない。本当に良いと思う素材、工法を積み上げて完成させている。

(広村)「一番最初に打ち合わせをしたのは野々市の直営店で、社長、専務、桶さんたちから、ソファの品質に対する思いや信念をたくさん聞かせてもらいました。その日のうちに工場も見せてもらったのですが、いかんせん、僕にはソファの良さが正直わからなかったんです。」

そこで、まず広村さんは有名な家具店のソファにひたすら座りまくるということをしてみた。超高級なブランドから庶民的な価格のものまで手あたり次第に。
お店のつくりや接客、店員の雰囲気も見ながら、とにかく座って自分の感覚で確かめた。

結論として出たのは、ソファの座り心地の良さは言語化できないということ。

しかし、品質に対してあふれ出る自信は、ヴィジュアルを伴って言語化できる。
そうして、1か月かけて完成したのが、ブランドコンセプトを示すこのコピーだ。

一つの世界、
一度の人生、
一脚のソファ。

(広村)「一回きりの人生の中で一脚だけソファを選ぶとしたら、トレスのソファであってほしい。という思いを込めて作ったコピーです。」

このコンセプトコピーをもとにして、ブランドを象徴するキービジュアルを作っていった。
キービジュアルは広告媒体で繰り返し出していくことによって、見る人にトレスのイメージを植え付けていくものであり、写真自体に強度が必要になる。ここには予算をかなり割き、コピーで作り出した佇まいを丁寧に表現した。

(広村)「青山店の内装外装もディレクションさせていただきました。施工会社のパースを見たら、ぶっちゃけ『足りない、頼りない』という内装外装だったので、元々つながりのある建築家にコンセプトを丁寧に伝えて、それを具現化できるような提案をしてもらいました。」

青山には有名ブランド家具店がひしめいているが、そこと差別化する一つの要素として、あらゆる特注別注ができるということを示すゾーンを店の入り口スペースに作った。
ソファテーラーという圧倒的な自信や、自信を裏付けるスキルを建築として表現するにはこの形が良いのではないかという建築家からの提案だ。

(桶)「かなり予算オーバーになったのですが、ブランドコンセプトに共感したので意思決定ができました。」

その後、外観から何屋か分からないので「SOFA SHOP(ソファショップ)」という文字を壁に入れてほしいという社長からの要望に、東京のクリエイティブディレクターは「イケてない」と大反対。

(広村)「でも、やって正解だった。僕らも、そこは学ばせてもらいました。」

何の店か一目で分かることで入りづらさを払拭し、通りかがりのお客さんを呼び込む。
これも少しずつ集客につながってきているという。

ブランディング≠売れる

(広村)「トレスはブランドの熱量がものすごくある。こちらも限りなく最良と思える提案をさせていただいた。そうやって満を持して青山に出た。しかし、すぐには売れなかった。」

ブランディングと売り上げはすぐには直結しないこともある。

ティーズモービレはBtoBで名前が売れていたが、BtoCではほとんどの人が知らないという状態からのスタート。表参道の駅貼り広告など色々な手を打ったが、集客が難しかった。

(桶)「しっかりしたキービジュアル、ホームページ、カタログ、実店舗も含めて、本当に満足するものを作ってもらった。でも、いざオープンしたら売り上げは目標の数値ではなかった。
こちからからしたら、当然売り上げを立てるために出て行ってるのですが、そこで何をするかという施策に乏しかったというのはあります。」

(広村)「屋外広告などオフラインの施策はいろいろやったけど、正直、Webの部分は若干手薄だなというところはあったんです。そこに望みを託すような感じで、デジタルマーケティング、Webに強い杉守くんに参入してもらいました。」

大幅に予算を割き、3か月集中してWebサイトのSEO改善やWeb広告の出稿に取り組んでいった。

まず、トレスのWebサイトは英語表記が多すぎてSEOには向かなかったので、日本人が検索しやすいカタカナ表記に変えていった。

その他に、Webサイト上のユーザー行動を分かりやすく可視化できるヒートマップを使い、ここを押されているからここを直そう、ここクリックされてるけど、実はクリッカブルになっていないよね、というように直していく。
プロダクトページについては、商品そのものを紹介するだけだったページに納品事例も追加し、ユーザーが自分の家のインテリアとそのソファがマッチするかどうかの判断基準となるようにした。

(杉森)「デザイナー目線や経営者目線ではなく、ユーザー目線で直していきました。」

(桶)「従業員40名ほどの小さな会社なので、社運を賭けた一大事業でした。Webに対する集中出稿も簡単なことではなかったけど、それでもやる価値があると判断しました。実際に売り上げが上がってきたなという手応えは半年くらいで感じました。」

佇まいと売りやすさ

ブランドの「佇まい」と「売り上げ」は表裏一体で、そのバランスを取るのが非常に難しい。
目立たせて集客という意味では、どんどん目立たせれば良い。しかし、それではブランドイメージを毀損してしまう恐れがある。

ブランドに共感している人の夢を壊してはいけない。
と言って、人の目に触れず、共感してくれるかもしれない人に知られないというのもいけない。
スピード感や結果を求めていきながら、ブランドのイメージを毀損しないように落としどころを探っていかなければならない。

(広村)「トレスの皆さんとはブランドリリースしてから定例会をさせてもらっています。店舗スタッフさんたちとも情報交換をして、次やるべきアクションはなんなのか、お互い協議しながら今も進めています。」

(桶)「作ったものを壊すのは簡単だと思うんですよ。例えば、もう関わらないです、ここから自社でやります、と言ってしまったら、たぶん数か月でバラバラになる。ちゃんとブランディングすると決めた以上は継続しなくてはいけない。」

日々営業していく中で、販売の現場では毎日のように課題が出てくる。
課題に対する数々の施策に、どう優先順位をつけてやっていくかという部分は、売り上げを作る方向として会社がどこに重点を置いているのかを知ることで、ある程度のプライオリティが見えてきたりもする。そういったことを定期的にヒアリングする場として定例会が活用されているそうだ。

最初にブランドの軸を作る部分は当然エネルギーのいる作業であり、ブランドコンセプト(言語化)、キービジュアル(視覚化)によって、消費者にどうイメージづけるかが重要になる。

それと同じくらいに運営する側にとっても自分たちのブランドがどういうものかという認識を持ってもらうことも重要だ。

デザインや佇まいを優先すると売りづらいし、売りやすさを優先するとイメージを壊す恐れがある。
佇まいと売りやすさについて、丁寧に話し合って距離を近づけることができて初めてブランディングになっていく。

(桶)「現状を報告しますと、集客も売り上げも上がってきています。確実に認知が広がっているという実感がありますし、数値としても出てきています。今の時点では確実に手応えを感じている状況です。」

「答え」ではなく「事例」

今回の話は「答え」ではなく「事例」だと広村さんは話す。

(広村)「ブランディングってこうなんですよ、こういうものなんですよ、というのを僕らが語るというのは、おこがましいなと思ってるんです。本当にケースバイケースなんです。
今日は定義論みたいな話は置いておいて、あくまでケーススタディとして聞いてもらって、それぞれに何か発見があればいいなと思いながら、洗いざらい紹介させてもらいました。」

ブランディングについての定義論は数多くあるが、そこに正解はあるのだろうか。
ビジネスのポジショニングによって、ブランディングでやるべきことや打ち出すことは変わってくるため、一概にブランディングはこうだと当てはめることは難しい。

すぐに成果が出ないこともあるブランディングでは、作ったら終わりではなく、並走してくれる仲間と協議しながらメンテナンスし続けることが重要になる。そのための根気と覚悟がブランディングをしていく上で一番必要とされる要素なのかもしれない。

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話し手
桶 裕允 氏
(TRES THE SOFA TAILOR ブランドマネージャー)
広村 浩一 氏
(Theme クリエイティブプロデューサー)

聞き手
杉守 一樹
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、
株式会社Dynave 代表取締役)

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