#41

2019.11.13

ユニバーサルデザインを取り入れる!
~想像と創造~

担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2019年11月13日、第41回は、
ユニバーサルデザインを取り入れる!~想像と創造~
聞き手は、福島 健一郎ディレクター。

文化・言語・国籍や、年齢・性別などの違い、障害の有無や能力差などを問わず、誰もが利用できることを目指したデザインを、ユニバーサルデザインと呼びます。 そういうと身構えてしまうかもしれませんが、ユニバーサルデザインは決して珍しくて特別なものではありません。スロープや、幅の広い改札、ピクトグラム(標識)など、私たちの生活している社会にもどんどん拡がってきています。 今回のモチモチトークでは、建築や製品、情報、まちをデザインしていく上で、誰もが利用できるユニバーサルデザインを、どのように取り入れれば良いのか、どうすれば取り入れることができるのか、お聞きしたいと思います。

【ゲストスピーカー】
安江 雪菜 氏(株式会社計画情報研究所 代表取締役社長、一般社団法人ユニバーサルデザインいしかわ 専務理事)

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ユニバーサルデザインとは

<ユニバーサルデザインとは>
ロナルド・メイスが提唱する7原則
(カリフォルニアユニバーサルデザインセンター長 1985年提唱)
1.どんな人でも公平に使えること。(公平な利用)
2.使う上での柔軟性があること。(利用における柔軟性)
3.使い方が簡単で自明であること。(単純で直感的な利用)
4.必要な情報がすぐに分かること。(認知できる情報)
5.うっかりミスを許容できること。(失敗に対する寛大さ)
6.身体への過度な負担を必要としないこと。(少ない身体的な努力)
7.アクセスや利用のための十分な大きさと空間が確保されていること。(接近や利用のためのサイズと空間)

実はこれを満足するプロダクトや街の中のデザインを作るのは非常に難しい。利用者は多様なので、ある人にとっては良くても、ある人にとってそれは良くないということが多々起こるからだ。

これから街や社会を作っていくときに私たちに何ができるのか。
「ちょっと視点をずらすことで見えてくることがある」と安江さんは話す。

「これはスウェーデンで撮った25年前の写真です。ベビーカーを押したお母さんがバスの中から何事もなく外へ出ていきます。これを見たときに私は驚愕しました。よっこらしょって行くわけでもなく、所作が美しいですよね。」

バスから渡りフラップが自動で出て、プラットフォームへ接続する。そんな優れたデザインがスウェーデンでは25年前に運用されていた。

その頃の日本で、安江さんは現地調査をしながら公園などの道路施設の基準を作っていた。
国の基準では勾配の基準は8%だが、実際に車椅子に乗ってみると8%の勾配は上れない。実験を重ねて、金沢市での基準は5%にしてもらうなどの改善を重ねていた。

「そんなこんなで、一応基準ができました、国でもバリアフリーを進める法律ができました、というところで、パタッとバリアフリー関係の仕事がなくなったんです。」

そこから20年程経過して、「なんでこのスロープは90cmでいいのに、踊り場を150cm角にしなくてはいけないのか」と、安江さんは公園の設計者から質問を受けた。
車椅子では上り坂も下り坂もバックできない。スロープの上から来た車椅子と下から来た車椅子は踊り場で止まってすれ違うことしかできないため、その幅が必要になる。と説明した。

つまり、基準はできたが、なんでそうなったかという理由は理解できていないということだ。 「今はオリンピック・パラリンピックのために、国もそういった基準をもう一度見直せという話になっていて、私は1回転したような気持ちになったんです。その時にたまたまユニバーサルデザインを普及するような団体を作ってほしいと巻き込まれまして『一般社団法人ユニバーサルデザインいしかわ』を作りました。」

ユニバーサルデザインいしかわ

一般社団法人ユニバーサルデザインいしかわ(UDいしかわ)は、社会のインフラだけではなく、働くことやアートなども含め、北陸ならではの地域特性の中でユニバーサルデザインを実現するためのプラットフォーム構築を目指し設立された。

ロゴマークは点字の「いしかわ」と、人が集まって対話をする楽しそうな様子を表現している。

UDいしかわのプロジェクトの一部に金沢ならではの「お茶会プロジェクト」がある。

「金沢には伝統工芸があって、茶の文化があります。部屋のしつらえ、着物、茶道具があって、ドラも漆もあるという、とても恵まれたところなんです。」

お座敷での正座ができない高齢者や障がい者も楽しめるように、立礼(りゅうれい)という、椅子に座ってテーブルで飲む方式のお茶会を企画した。

このお茶会は、金沢美術工芸大学の池田先生とユーザーによって、持ちやすい茶碗を考え、作ることから始めた。どうやったら飲みやすいか、手に持ちやすいか、重さ、厚み、形など、彼らは極めて敏感に感じ取る。そういう敏感な能力を持っている人たちを「センシティブユーザー」と呼び、一緒に企画を進めていく。
茶碗だけなく、茶菓子についても食べやすさを検討した。どうやったら気遣いをされずに美しく食べることができるか、色々なお菓子を試食して検討した。

「スペシャルにカスタマイズされた食器は色々と販売されていますが、それが美しいかという事はまた別問題で、まだまだ改善の余地があると思います。私たちは、まず所作が美しくて食べやすいというレベルを目指してやっています。」

このプロジェクトを通して池田先生が抽出した形が、茶碗を側面から見たときに見える丸と三角と四角だ。丸は「掴む」形、三角は「乗せる」形、四角は「包む」形。 丸は掴むことができる人たちの茶碗、三角のものは夏茶碗と呼ばれ、冷めやすい形だが頸椎損傷などで握力がない人も両手に乗せやすい。四角のものは筒形で、目の見えない人たちがしっかり包むような形で角度や口に入れる量を確認しやすいという。

2017年、金沢21世紀工芸祭のコンテンツの一つである金沢みらい茶会は、「○△□(まるさんかくしかく)茶会」とタイトルをつけ、鈴木大拙館で行われた。
鈴木大拙は禅画「○△□」をThe Universe(ユニバース)と訳し西洋に紹介した。

「ユニバーサルか、それじゃあ『ユニバーサルデザインいしかわ』じゃないか、と言うことで、ピタッとここではまったんです。」

2018年には「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を開催。
真っ暗闇の中を全盲のスタッフがアテンドしていくというエンターテイメントだ。

90分間、グループでアテンドの指示に従って暗闇の中を進んでいく。暗闇だから「私はここにいます」と言わないと存在を消されてしまう。声に出してみんなコミュニケーションを取るので、知らない人同士もニックネームで呼び合い、会場を出る頃には距離感が近くなる。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは全国で開催されてきたが、金沢では「暗闇で感じる工芸」をテーマとして、目で見ないで工芸をどう感じるか、みんなが触って表現するのを聞きあって鑑賞するというコンテンツとした。

イベントに参加した16歳の子の感想は
「目で見ると、その物を理解したように思ってしまうが、時には、目で見ないほうが物を深く理解できるのだと思った」
というものだった。

言葉で説明するよりも、体感して腑に落ちるというダイアログインザダークのようなものによって、子供たちの心に残ってもらったらいい、それが教育になると思う、と安江さんは話す。

「人それぞれ感じ方は自由でいいと思うのですが、やっぱり、アテンドする視覚障がい者の方って、見えてないけど大体わかってるんですよ。声のトーンなどで全部わかってしまう。彼らは見えてないけど見えているんです。」

想像と創造

障害分類は、3つの障害に分けられる。 1)インペアメント(精神または臓器レベルの機能障害)
2)ディスアビリティ(インペアメントによって生じる個々の人間レベルの能力障害)

3)ハンディキャップ(インペアメントやディスアビリティを負っている個人と環境との相互作用によって生じる社会的不利)

そして、ハンディキャップを生じさせる環境側の要因をバリア(障壁)と言う。

個人にハンディキャップがあるのではなく、個人と社会の環境との相互作用で生まれる社会的不利がハンディキャップである。

例えば、駐車場の発券機などは腕が上がらなくて取れない人もいる。その駐車場に障がい者の駐車枠があったとしても、実は出入口でカードが取れないから、協力者と連絡を取り合いながら出入口で待ち合わせをして駐車券を取ってもらい清算もしてもらうことが必要になる。しかし、そういう事実はあまり知られていない。駐車枠があればいいという問題ではない。

そうやって見ると街はバリアだらけなのだが、自分が体験をしたり、情報を知らないと気づかない。それが、イマジネーションが働かないということ。UDいしかわでは、デザインワークショップなどでユーザーと話をしたり体験をすることで、知識や経験を共有・蓄積し、よりクリエイティブな解決方法へと導くことを目指している。

クリエイティブ(創造)には、ある程度のイマジネーション(想像)が必要だと安江さんは言う。

「2~30年前と街があまり変わっていないことが私はとても悲しくて、少しでもいいから、こういうことに気づいて、もう少し、わかりやすくバリアがないというんじゃなくて、知らないけど自然と移動できたわ、というくらい、そこにバリアがないことを感じさせないデザインというのを広めていけたらいいなと思っています。」

北欧では、新しく街を作っていくときに、根本的な最初の思想としてユニバーサルデザインの概念が当たり前のように組み込まれている。しかし、日本では施設を整備するにしても、最終段階で後付けの方法で解決しようとしているのが現状だという。

(福島)「自分が関わっているテクノロジーの分野でも、本当は最初から考えに入れて、社会をつくるとか街をつくるとか考えないといけない時代になっていると思っているんですよね。最終的な状態でなんとかしようとすると難しいんです。でもテクノロジーは社会の中で根本に関われるようなものではないだろうと思われているので、最初のほうで入ってこないんです。そこはユニバーサルデザインの問題と同じなのかなと思います。」

「インターネットがない時代は本当に外に出られなかったのですが、今は音声読み上げソフトなどテクノロジーの力で少しは出やすくなっています。アクティブになれる。そこに丁寧な情報を集められたらいいなと思ってます。シビックテックと一緒に何かやりたいですね。」

金沢市のオープンデータ(行政が持っているデータを出していこうという取り組み)には、現在バリアフリーの道路情報データはないという。

(福島)「市民活動でバリアフリーのデータを集めている事例もあります。そういうデータを市民のレベルで集めて埋めていくことで有益なものになって、観光客にも提供できるようになればいいですよね。金沢はまち歩きがいいですよ、とは言っても、目が見えない方や車椅子の方はどれだけまち歩きができるのか、というのはいつも思っています。」

シビックテックとユニバーサルデザインは共感性が高い。今後の協働によって、誰にとっても住みやすい社会へ近づいていくに違いない。


話し手
安江 雪菜 氏(株式会社計画情報研究所 代表取締役社長、一般社団法人ユニバーサルデザインいしかわ 専務理事)

聞き手
福島 健一郎(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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