#47

2020.09.28

「気候変動危機」 ~いま起きている現実と未来へのアクション~

担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2020 年9 月28 日、第47 回は、
「『気候変動危機』 ~いま起きている現実と未来へのアクション~」。
聞き手は、福島健一郎ディレクター。
世界的にも注目を浴びている環境問題。いま世界中で何が起きているのか、今後の未来のために何ができるのか。世界の環境問題の状況をよく知る金沢大学の河内先生をお迎えし、
「気候変動危機」という観点から、いま起きている環境問題の現実と未来へ向けてのお話を伺いました。

【ゲストスピーカー】
(河内 幾帆 氏 / 金沢大学 准教授)

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金沢大学の国際機関教育委員に所属し、准教授を務めている河内先生。現在は、金沢大学で 環境やSDGs 関係の授業を教えている。
そんな河内先生が、環境問題に興味を持ったのは高校時代。高校生だった当時、アマゾン熱帯雨林の急速な消滅の映像に衝撃を受けたことが、環境問題について考えるきっかけだった。
それから国連で国際的に環境問題に取り組むことを目指し、アメリカ留学へ。
そのままアメリカへ移住し、アメリカとメキシコで19 年間過ごした後、2018 年から金沢大学で環境問題に関する授業を担当している。

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適度に必要な温室効果物質

まずは、「気候変動危機」のなかでも馴染み深い「温暖化問題」について紐解いていこう。
はじめに大前提として、温室効果物質(水蒸気、二酸化炭素、メタン、フロン類など)は、 哺乳類が生存するにあたって必須である。

温室効果のサイクルは、太陽から日光が地球に照射され、太陽光の約7割を大気と地表で吸収することから始まる。そして、地表から出ていく赤外線を温室効果物質や雲が吸収し、大気中へ戻すことによって、温室効果が生まれるのだ。
温室効果物質が大気中にあるおかげで、そうした熱が大気中に保持され、地球の平均気温を約14℃に保ってくれている。
そういったサイクルのおかげで、哺乳類が住みやすい環境が出来上がっているのである。

仮に温室効果物質がなかった場合、
地球の平均気温がだいたいマイナス19℃ぐらいになってしまい、
哺乳類がほぼ住めない環境になってしまう。
つまり、私たちにとって温室効果物質というのは、非常に重要なものであるのだ。
近年の問題は、「温室効果物質があまりにも多くなりすぎている」という点にある。
そんな温室効果ガスは、様々なところから排出している。石炭火力発電所や石油生産でもある化石燃料の使用。陸上輸送や空輸もそれに当てはまる。
さらに工業プロセスや森林焼却、農作物の焼却、永久凍土層の溶解など、様々なところが発生源となっているのだ。

温室効果ガスには、水蒸気、二酸化炭素、メタン、フロンガスなど様々あるが、人間活動から出ている最も大きなものは、二酸化炭素である。
二酸化炭素排出量を時系列で追ったグラフを見ると、1950 年を境にして第二次世界大戦終了後、一気に化石燃料の消費が膨れ上がっている。
当時先進国であるアメリカ、ヨーロッパ諸国がCO2を排出した後、高度経済成長がはじまった日本や中国が更にCO2 の排出量を高めていった。

一つ重要な問題は、CO2 の排出量増加が人為的か自然現象なのかという点だ。科学的な見解では、人間活動が20 世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いことが結論付けられている。つまりCO2 の排出量増加の原因は、人為的であるということだ。
よって、温室効果ガスを減らしたいのであれば、やはりまずは電力、熱、運輸などを減らしていく必要がある。

これから地球で何が起こるの?

現時点で、すでにこれまで経験したことがないほどの温室効果ガスの増加、CO2 濃度を経験している地球。
今後もそれらはさら増加すると考えられており、このまま温室効果ガスの削減策を取らない場合、世界の平均気温が 2100 年までに最大 4.8 度上昇すると考えられている。

その結果、日本では「猛暑日日数が全国で増加すること」「短時間強雨の発生回数がほぼ全国で増加すること」「無降水日数がほぼ全国で増加すること」などが起こり得るだろうと予測されている。
また近年問題視されている、サンゴ礁の白化現象や台風の巨大化の原因もここにあるのだ。

世界的にみても以下のようなリスクが危惧されており、世界中で数々の問題が懸念されている。

「将来の主要なリスク」
・海面上昇
・洪水豪雨
・インフラ機能停止
・熱中症
・食糧不足
・水不足
・海洋生態系損失
・陸上生態系損失

「パリ協定」でCO2 排出量「ゼロ」を目指す

こうした背景から、これ以上気候変動の速度を進めないために、2015 年にほぼ全世界の国との間で「パリ協定」が締結された。「パリ協定」は、将来の気温上昇を最大2℃未満に抑える(できるだけ 1.5℃未満)ことに合意したもので、2050 年までに温室効果ガスを 80%、2100 年までに 100%の削減を目標にしている。
つまり、温室効果ガス排出量を削減し、今世紀の後半のできるだけ早い時期を目途にその排出量を正味ゼロとすることに合意したことになる。

「パリ協定」を締結してから、ドイツやイギリスをはじめ北欧西欧諸国やアメリカでは、すでに CO2 排出量の減少に成功しており、大幅に前進している。

しかし、日本は 1990 年と比べると CO2 排出量が増えており、世界からだいぶ遅れをとっているのが現状だ。前進しているどころか、増えてしまっているため、他の先進国諸国から非難を浴びるという状況になっている。

ライフスタイルの変換を

私たち日本人は、「私たちは至ってシンプルな生活をしており、贅沢三昧をしている訳ではない」と思うかもしれない。しかし、世界中の人が平均的な日本人と同じ生活をした場合、約 3 個分の地球が必要だと言われている。それくらい日本では、CO2 排出量が多いのだ。

日本に住んでいるという時点で、化石燃料に頼った発電をしているというのも大きな理由のひとつ。それに加え、日本は使い捨てのものが多く、資源をかなり無駄にすることが多い生活が中心となってしまっている。
つまり日本は、環境に負荷がかかりやすいライフスタイルとなってしまっているのだ。

そんな日本から CO2 排出量を減らすには、いまの日本社会のやり方では到底無理に近く、社会自体が変わっていかなければならない。そして、社会自体を変えていくためには、まずは個人が少しずつ生活スタイルを変えていく必要があるというのが重要なポイントだ。

例えば、「菜食」「ベジタリアン」になると、年間一人当たり 350kg の温室効果ガスの削減になる。また、自動車を使わず公共交通機関を利用したり、ハイブリッド車にしたり、乗り合わせたりすることも効果的だ。ちょっとしたことでも、将来的に大きな差となって現れてくるのである。

気候変動対策にマイナスイメージの日本人

2015 年のパリ協定の際に、気候変動対策の市民への意識調査というのが世界中で行われた。
「気候変動対策は、あなたにとって生活の質を脅かしますか」という問いに対し、世界平均の答えは以下である。
■ 「自分の生活の質を脅かすと思う」:26%
■ 「生活の質を高める機会になると思う」:67%
■ 「生活は変わらないと思う」:4%
■ 「わからない」:3%

中国やドイツ、アメリカでもだいたい同じような傾向が見られ、気候変動対策を前向きに捉えている人が多い。

一方、日本では 60%の人が「自分の生活の質を脅かす」と答えている。「自分の生活の質を高める機会になると思う」という非常に前向きに答えた人は、たったの 17%だけだった。

「大学の授業で学生に同じアンケートをとっても、だいたい同じ答えになるんです。一般の人々と話をしていてもそうです。『やらなきゃいけないのはわかるけど大変そうだな』という答えが返ってくることが多い……。ここの部分が、日本の社会政策の転換を阻害している大きな要因であると私は思っています。
というのも、民主主義社会、自由市場において、市民・消費者・有権者という存在が鍵を握っているんですね。」

例えば企業が環境に優しいことをしたくても、それによって値段が少しでも上がると、消費者に嫌がられてしまう。日本の消費者の多くは、環境に優しくて値段が高いものよりも、安いもののほうが嬉しいという価値観が根付いてしまっている。この循環でいくと、環境に優しいことを優先する企業が潰れてしまうのだ。

また、政治家が環境に優しい政策を立てたいと言っても、
他のことのほうが大切だからと有権者がその人を選ばなかったら、せっかくの政策も立案されない。

さらに、メディアが環境問題に関して報道したくても視聴率が取れないため、企画が通らず報道できないことが多いのである。

そういった意味で、市民の消費者や有権者がもう少し前向きな気持ちにならないと、全体的に施しようがない状況に、日本はいるのだ。

気候変動対策は、「発想の転換」がキーポイント

何事も捉え方次第。気候変動対策でも「発想の転換」がポイントだ。新しい社会に向け、発想転換し、選択肢を増やしていくことが今後重要になってくる。

「日本人は環境問題と向き合おうとすると、『やらなきゃいけない』『やっちゃいけない』というマイナスな固定観念にとらわれている方が多いです
『リサイクルしなくちゃいけない』『ゴミは分別しなくちゃいけない』『車に乗っちゃいけない』『お肉は食べちゃダメ』などと思うと、息詰まるような気持ちになってしまうことが多い。
そういった思考から、『やった方がいいのは分かるけれど、しんどいからできない』という結果になってしまうんです。
だからこそ、発想転換が必要!『やった方がいい』から『やりたい』へ転換していく必要があるのではないかなと思っています。」

発想の転換は、考え方次第でいくらでも利用できる。

「発想の転換方法」
■ 省エネを心がける → 外で過ごすことも楽しい!アウトドアへ
■ お肉を食べちゃダメ → 野菜って美味しいよね!
■ 物を持っちゃダメ → 大切に長く使いたい!
■ 食べ残しをしちゃダメ → 食べ残しをしない人ってかっこいいよね!
つまり、「楽しい」などポジティブな気持ちが人々の行動を変えるのである。
まずは、そういった考え方へ変換していき、その先にある人々の意識の変化が少しずつ増えることが大切だ。その結果、社会全体が動きやすくなるのではないだろうか。

「また、日本にいて感じるのは、環境に優しい選択肢がかなり限られていること。だからこそ選択肢をもっと増やしたいと思っています。
例えば食の選択。日本では菜食になるというのは私も含め、かなりハードルが高いです。
日本のレストランの多くは、野菜だけを頼もうと思ったら選択肢がサラダしかない……。
しかも 3 品しかないなんてお店も多いです。そもそも選択肢が少ない……。
それなのに『環境に優しいんだから、このサラダじゃないとダメ』と言われると、絶対にくじけてしまうんです。自分には無理だと。
だからこそ、様々な選択肢を作ってあげるのが大事なんです。
例えば、『いつもより野菜を多く食べてみよう』とか、『野菜料理のレパートリーを増やしてみよう』とか。
これらがクリアできたら次は『週に 1 日は野菜メインで夕食を食べよう』とか『牛肉は特別な日のためにとっておこう』などへとステップアップできると思うんです。
そういう形で、徐々に野菜を食べる割合を増やしていければ良いと思っています。人々がこういう形で少しずつ移行していくと、社会全体で菜食がしやすい形に変わってくると思います。」

気候変動対策にマイナスイメージを持ちがちな日本人。
しかし、物は考えようで「発想転換」ひとつで、プラスイメージへ繋がっていくのだ。
この「発想転換」こそ、今後の地球を救う未来のスタートなのではないだろうか。これからの日本の環境問題と向き合い方を変えていくには、個人ひとりひとりの考え方次第なのかもしれない。

話し手
河内 幾帆 氏
(金沢大学 准教授)

聞き手
福島 健一郎
(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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