#04

2017.07.22

「スマート里山都市構想」ってなんですか?
―― 大学が考えるイノベーション経営とは――

担当ディレクター:村田 智
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2017年7月20日、第4回は、「『スマート里山都市構想』ってなんですか?」
聞き手は、村田 智ディレクター。

村田ディレクターより
「『声が大きい人が作った台本に沿ってやる“まちづくり”って、なんだかつまらないですよね…』って、福田さんのフレーズが印象的でした。」

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白山里山都市、スマート里山都市

2018年4月、霊峰白山、「かんぽの郷 白山尾口」跡に、学校法人金沢工業大学が新しいキャンパスを開設する。敷地面積約67、849㎡。通称「白山里山都市」あるいは「スマート里山都市」。

敷地内には、国際高等専門学校※1、2年生が学ぶ教室、モノづくりスペースや図書館を兼ね備えた「高専校舎」を中心に、「高専学生寮」、「体育館」、地域連携・産学連携・教育研究・研修の場である「KIT Innovation Hub」、エネルギーマネジメント実証実験の場「エネルギーセンター」、さらには地域住民も利用できる「温泉施設」が整備される予定だ。

さて、学校法人金沢工業大学は、一体何の実現をめざしているのだろうか。

※国際高等専門学校:白山麓キャンパス開設と同時に、 2018年4月から金沢工業高等専門学校が、国際高等専門学校・国際理工学科としてカリキュラムを刷新。基本的な授業はすべて英語で行われる。金沢工業大学は、国際高専の5年間+金沢工業大学・大学院の4年間、計9年間の教育システムでグローバルに活躍するイノベータ―の育成を目指している

点と点をつなぎイノベーションを起こす、第3のレイヤーに。

「白山里山都市について語るうえで、僕が一番伝えたいスライドがこれです」
金沢工業大学で産学連携局次長を務める福田さんが、そう語るスライドのタイトルは
「コネクティングザドッツから、イノベーションへ」。

「コネクティングザドッツ※。
――先を見通して点をつなぐことはできない。振り返ってつなぐことしかできない。
だから、将来なんらかの形で、点がつながると信じることだ。何かを信じ続けることだ――
スティーブ・ジョブズの言葉です。
僕は金沢工業大学のバイオ・化学部応用バイオ学科の長尾教授からこの言葉を聞き、すごく大事なことだなと感じました。
長尾教授も、サイエンスでは、事象を掘り下げていけば、必ずなんらかの形で最後はつながるとおっしゃっています。」

※connecting the dots(コネクティングザドッツ): 2005年のスタンフォード大学の卒業式における、スティーブ・ジョブズ氏の講演の中の言葉。

「今の日本には、大手企業や大都市(行き過ぎた資本主義)、中小企業・地方都市(複雑な自然界)という2つのレイヤーがあります。その中で、事象(点)と事象(点)を掘り下げると、点と点は確かにつながります。
しかし、それらをつなげているのは、「合理化(資本主義)」の視点がほとんどです。
点と点はつながっていますが、誰かが儲かるために、お金中心の話でつながっているというのが今の社会なんです。それに、往々にしてその儲けは大手企業や大都市の中で完結している。」

このまま経済中心の社会の流れに乗っていくと、一方のみが栄え、もうひとつのレイヤーである中小企業・地方都市(複雑な自然界)との格差はどんどん広がってしまう。
そこで、これからの社会に必要となるのが、コネクティングザドッツ(いつか点はつながる)という思想を持った上での、社会のあらゆる事象に対する本質の探求であり、それらをつなぐための、合理化や資本主義以外のアプローチであり、さらに、つないだものをイノベーションへ導くための新たな視点や手法だというのだ。

「複雑な自然界が持つ、歴史や文化等を含めた、サイエンスとアートの観点で、点と点をつなぐんです。さらに、そのつないだ点と点を、デザインとエンジニアリングの考え方や手法を生かしながら、シビックテックやフューチャーセッションのような場で、市民や多様な人を巻き込んで考え、イノベーションにつなげていくことが必要なんです。」

しかし、現状の資本主義的な考え方の社会では、どうしても、イノベーションに関して個人や会社組織の利害関係が絡み合う。
生み出されたものごとは誰かの限定的な利益になり、その枠を出ない。

「そこで、ポスト資本主義としてイノベーションを生み出す、3つ目のレイヤーとなりえる場をつくりましょうというのが、この里山都市構想なんです。」

そして、この里山都市が目指すのは、既存の価値観をいい意味で壊し、新しい価値観で都市の機能をアップデートしつづける都市だという。だからこそ、そこには、学生はもとより、一般市民、企業、アーティストやクリエイター、エンジニア、サイエンティストなど、世代や分野、文化を越えた多様な頭脳の集積が必要不可欠だ。

「大学は、そのファシリテーションをするという立場です」

里山都市のスマートシティ化=スマート里山都市

ところで、「スマート里山都市」の「スマート」とは、何なのだろうか。
その由来は「スマートシティ」の意味にある。

スマートシティとは、ITや環境技術などの先端技術を駆使し、町や都市全体の電力の有効利用、熱や未利用エネルギーを含めた生活インフラを管理し、交通システムや市民のライフスタイルの転換などと複合的に組み合わせた、効率的でサステイナブル(持続可能)な都市のことである。
白山里山都市もこれを目指し、事業を進めているのだ。

2017年6月には「白山IoT推進ラボ」※が発足。
「産官学や地域住民が連携した、里山都市における新たなライフスタイルの創造」を
テーマに掲げ、白山麓キャンパスをフィールドに、IoT、BIGDATA、AI等の先端技術を駆使しながら、地域の課題解決やイノベーションの創出に向けたさまざまな実証実験を行っていく予定だ。

すでに、株式会社NTTドコモと金沢工業大学が連携した通信インフラ整備や、里山地域の3次元空間情報を収集しての自動運転やドローンの自動飛行への活用検討、白峰まちづくり発電所※の開所、「IBM Watson」※を活用した里山に住む方々の成長支援システムの導入などが進められている。

「IoT推進ラボコンソーシアムも発足しました。どんな方でも加わっていただけます。ここをプラットフォームに、プラットフォームビジネス※が促進されれば良いと考えています。今では県内外90社の企業が参加しています。」

※白山IoT推進ラボ:経済産業省に認定された地方版IoT推進ラボ事業(地域におけるIoTプロジェクト創出のための取組で、認定されると、企業連携・資金調達・規制改革等に向けた支援が受けられる。白山市、金沢工業大学、株式会社NTTドコモ、株式会社アイ・オー・データ機器などの企業が事業に参画している

※白峰まちづくり発電所:NPO法人白峰まちづくり協議会が地域活性化事業として建設した小水力発電所。流雪溝から取水し発電するもので、金沢工業大学地域連携事業の取り組みの一つ

※IBM Watson:IBM社が提供する自然言語と機械学習を使用して大量の非構造化データから洞察を明らかにするテクノロジー・プラットフォーム

※プラットフォームビジネス:場を提供してそのプラットフォームでビジネスが行われるようにする。場の提供者は本来のサービス以上に価値を獲得できる。ネットワーク効果が高いのが特徴とも言われている。代表的な例に楽天、Apple、LINE、Googleなどがある

デザインの視点+アルファ

いろいろな人に参画してもらおうとする上で、「デザインの観点が大事だ」と語る福田さん。
そう実感した一つの例に、実際に建設現場で実証実験を行った際のトラブルがある。
「建設現場はIoTの投資分野としてすごく注目されています。そこで、現在、キャンパスを建設中なのであれば、そこを生かして工事現場における安全安心確保のための実証実験をしようということになりました。建設作業員の方に試験的に装置を装着してもらって、バイタルデータや位置情報から、危険な状態になるとアラームが鳴るというものです。」

しかし、建設現場は、装置を開発したメイカーの想像以上に過酷だった。

「あちこちでアラームが鳴るんで、『仕事にならない』と言われてしまいました。
ここにデザイナーさんの視点が入っていれば、この状態で建設現場での実験はしない、という思考になったかもしれない」

ビジュアル面でも、多くの人に広く伝えるためのデザインは重要であるという。その一つの例が、「白山里山都市コンセプトブック HAKUSAN CREATIVE BIOTOPE」の冊子である。
白山里山都市を、「HAKUSAN CREATIVE BIOTOPE」とし、里山都市のコンセプトや特徴、
これから生まれるであろうさまざまな事業アイデアを、イラストと言葉でわかりやすくまとめたものである。

「デザインをすることによって、親しみやすくなります。人が集まって楽しそうな印象も伝わります。それでも、内容が内容なだけに、どうしてもわかりづらいこともあります。
だからこそ、ハッカソンやミートアップといった実際の場を設けて、子どもたちにもわかるように噛み砕くということを繰り返したいなと思っています。地域の住民がこの都市にすでに入っているとなれば、企業さんも参入いただけるのかと思います。
このようなアプローチによって、多くの人をどんどん巻き込んでいきたいですね。」

さて、われわれは一体、何をするのか ――  集まり、考えるのである

では、結局のところ、一般市民や、実験を必要としない企業は、この里山都市にどう関われるのだろうか。

「何をするのか、とよく聞かれますが、集まって考えるんだ、と答えています。集まることのできる場、KIT Innovation Hubがあり、さらに、ハッカソンやアクティビティ、アワードやフェスティバルといったプログラム、里山というフィールドも用意します。
そこにみんなで参加して、里山や森について、教育や医療などの社会的課題について、考える。
何が生まれるか、自分にもまだ見えていないけれども、『うちの会社でこういうことを考えたいから、みんな集まってよ』というようなことが日常的に行われるようになるといいなと思います。」

世代や分野を越え、普段関わることのない人やアイデアが出会い、化学反応を起こし、課題を解決したり、新たな価値観を創造したりする。そのためのハードとソフトを備えた「場」が用意される。これだけを聞くと、よくあるハブや、ラボといった施設のようである。
しかし、この里山都市、白山麓キャンパスは、開山1300年の白山麓という深い自然を有し、人と自然が永く育んだ歴史や知恵、コミュニティがすでにある地域に、大学というアカデミックで革新的で、ある意味異質な存在が入り込み、都市という規模でプラットフォームの役割を担っていこうとしている点にある。
さらに、そこで議論され実験されるのは、都市、地域、社会といった、人の生き方に関わる課題だ。第3のレイヤーが背負う役割はなかなかヘビーだ。

「地方都市と大都市の関係を相互補完して、より日本を強くしていくことが必要だと思います。
そこで、大学が、どう、その関係を構築できるのかということを、今は模索しているところです。
人は、目的を持って学ぶということをしないと成長していかない。その場作りをどうするか。
専門学校もどんどん大学化していきます。大学らしい価値をもっと追求していくことが必要なんだと思っています」

人が目的を持って学ぶための場所、大学。その大学が核となり、第3のレイヤーとなり、分野を超えて人を、地域をつないでいく。大自然をフィールドに人々は考え、議論し、遊び、また頭脳や知恵が集積していく。時間がかかるかもしれないけれど、それが叶えられるのならば、私たちは
一つの新たな理想的な都市の姿を見ることになるだろう。

話し手
福田 崇之(ふくだ たかゆき)氏
金沢工業大学 産学連携局 次長
金沢工業大学工学部情報工学科卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社を経て、KITへ入社。産学連携局の設立に携わり、現在は、自治体・地域・企業連携によるイノベーションプロジェクト、Watsonプロジェクト、白山麓キャンパス産学連携拠点整備等を推進するかたわら、金沢工業大学大学院ビジネスアーキテクト専攻の学生でもある。

聞き手
村田 智
ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター(株式会社MONK)


鶴沢木綿子

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