#34

2019.05.30

選挙 × IT
テクノロジーで政治の市民参画をうながす方法

担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2019年5月30日、第34回は、
「選挙 × IT テクノロジーで政治の市民参画をうながす方法」。
聞き手は、福島 健一郎ディレクター。

昨今、世界中でITを利用した選挙や政治への市民参画が注目を浴びています。
ネットによるオンライン投票の議論だけでなく、SNSの活用、投票所の可視化、実績も含めた候補者情報のネット公開など、政治を身近にしてより多くの市民が選挙に足を運びやすくする方法は色々と考えられるはずです。
今回は元野々市市議でもあり、テクノロジーにも精通している五十川堂の五十川さんに来ていただき、選挙×テクノロジーの可能性について議論しました。

<五十川 員申(いかがわ かずのぶ)/cafe?IKAGAWA DOオーナー>
2010年金沢工業大学大学院工学部機械専攻修了。大学時代は、NHK大学ロボコンや、二足歩行ロボット競技会に出場。大学院では流体力学を中心に学び、在学中イリノイ大学へ1年間留学。
留学中に感じた大学を中心とした町づくりに感銘を受け、卒業後拠点となるカフェを開業、同時に大学や専門学校での非常勤講師や、webサービス制作、地元企業のコンサルティング、若手起業家の育成支援などを行う。
2015年4月から、野々市市議会議員としてまちづくりに携わり、野々市市議会初の議会主催のワークショップの運営などに携わる。

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流行より文化を作りながら日本を元気にする仕事をしています

野々市市でcafe?IKAGAWA DOを運営する五十川さんは、Code for Kanazawa(コードフォーカナザワ)の立ち上げメンバーでもある。

Code for Kanazawaの活動は、テクノロジーを使って社会課題を解決していこう、自分の望む社会・地域を、ICTを使ってつくっていこう、というシビックテックである。

どの地域でも深刻になりつつあるゴミの問題について、Code for Kanazawaでは正しいゴミの捨て方に注目し、ゴミ出しアプリ「5374(ゴミナシ).jp」を開発。このアプリはcafe?IKAGAWA DOで合宿をして開発された。

「祖父が議員だったんですよ。議長もやってそこそこ頑張っていたんで、自分もいつかはやってやろうという思いはあったんです。まさか野々市でやるとは思っていなかったけど。」

野々市市に5374.jpを持ってあいさつにいったら「困る」と言われたことが立候補のトリガーとなる。
他の地域では「頼む、やってくれ」と言うところが多かったアプリに対しての冷遇に、これはやらねば、変えていきたいと思い、将来を見据えて可能性のある地域だと感じたそうだ。

選挙ポスターをデジタルサイネージに

・投票所がどこにあるのかわからない
・候補者が何をやっているのかわからない
だから行かない、とりあえず知っている顔の人に投票する、など、わかりづらい選挙も社会課題の一つだと五十川さんは考える。

「この人の政策本当に面白いな、この人にだったら任せたいな、という人に票を入れてほしいと思うので、ぶっちゃけて、バックボーンとかあんまり気にせんでもいいんじゃないかなと思ってて。
今、VTuberとかあるじゃないですか、男か女かもわからないVTuber的なものが政策を論じて投票してもいいんじゃないか。面白いんじゃないかなと思うんです。」

選挙ポスターをデジタルサイネージ(デジタル看板)にして、普段は地域コミュニティの情報発信をする。選挙の期間は選挙情報を流す。そうすると、普段見ている看板なので自然と目に入る。

デジタルサイネージの利点は、アウトプットできる情報が増えることや、バス停や公民館、スーパーのレジの前など多くの人が見る場所に置くことができる点だ。

今の選挙は結局認知度で当選が決まってくる。単純に露出が高いほうが勝つのはマーケティングを勉強している人なら知っているはず。イベントなどでの露出が多い現職に対して一般人がどれだけ認知度を上げられるのか。

「本当は認知度勝負ではいけない。そういうところをデジタルの力でフラットにしてほしいなと思いますね。」

本当に声を出してほしい人たち

「ぼくは基本的に政治が好きな人が大好きなんです。本気な人って本気で話ができるから。政治に興味がある人を大変リスペクトしています。一方で、まちづくりが好きな高校生や大学生がいるけど、じゃあ政治は?誰を応援するの?と聞くと厳しい。まちづくりを決める最終ポジションにコミットせずにやっていても…ねぇ。」

政策の中身で決められるという選挙や政治に変えていくために一番簡単なのは、個人個人が声をあげて誰かを応援できる状況になること。政治との距離感が自分事として考えられる状況になってくれないと始まらない。

「本当に声を出してほしい人ほど政治から距離を置いてしまっている」と五十川さんは訴えかけた。

GitHub(ギットハブ)に条例全部あげてから始めようぜ

今の条例では、平成〇月〇日にここが追加されました、削除されました、ということは書いてあるが、そこに対して、どういう議論がどのタイミングで行われたかという紐づけが非常に弱い。誰がまずそこを起草したのかというところも弱いので、GitHub(差分のログを取れるソフトウェア開発のプラットフォーム)などで見える化できるようにならないのか。

アメリカのワシントンDCでは既にGitHubを使って正式な法律文書が公開されている。それに対してプルリクエスト(閲覧者が追加や修正をリクエストできる機能)も出せるようになっている。

様々なテクノロジーを利用していくことで、そう遠くない未来、誰もが簡単に政治の世界に意見を言って変えていくことができるようになるのかもしれない。

「みんなで公職選挙法を読んでみる」っていうのをやってみて、どういった公職選挙法だったら今の時代に合っているのか、デジタルに寄せた感じで見てみる。そういうことに取り組む人がいてもいいんじゃないかな、と五十川さんは話す。

2時間のYouTube広告?

公平な第三者が候補者の情報を市民に発信したいと思った場合、フェアにすることがとても難しく、結局どこかにバイアスがかかってしまう。
例えば動画などを使って健全公平なファシリテーターの前で討論会をするとしても、発言や画面に映る時間などの分配を均等にするのは簡単ではない。
それがICTのちからを使えば公平にできる。機械を使ってフォーマットを作ってしまえばいい。

候補者はみんなの前で話す必要がある。今は動画配信などのコストもさがっているので、それは可能だ。
ただし、金沢市議会のように人数が増えると難しくなる。

「選挙期間中はすべてのブラウザがすべての議員を見るまでは見れないとか、2時間くらいのYouTube広告を出せば可能かもしれないですね。」

五十川さんの突拍子もない発案で会場は笑いに包まれた。

オープンデータを利用したまちづくり

バスの時刻表はオープンデータにすべきだという議論が昔からあったが、もしバスアプリができて時間が間違っていたら文句を言われるのはバス会社だと反発されていた。確かにそういう可能性もあるが、ある程度の部分は許容し、市民の力も利用して変えていく時代になってきている。

今は国土交通省自身が公共交通について、シビックテック側が推進していたGTFSというフォーマットを標準化してオープンデータ化している。

間違った利用をされる可能性もないとは言えないが、そこは責任を取らなくてもいいと公式文書に載せている。そういうスタンスでこれからも皆で国づくり町づくりをしていこう、というような風潮になってきているように感じる。

本気で考えている人たちの活動を無駄にしてほしくない

「マジでこの日本がやばいとかこの地域がやばいと思って、本気で政治に取り組もう、俺らがなんとかしなきゃどうにもならんわと思ってる人が各地域で手を挙げているんですよね。なのに、リーチしないというのは、相当大変なんですよ、選挙に出るのって。誰でも出れるというけど、すごく大変。」

全力でやっている人がいるってことを感じてほしい、各々がしっかり考えてくれるような土壌を作りたい、と強いトーンで話す五十川さんと福島ディレクターのセッションは最後に最高潮を迎えた。
以下、トーク内容をそのまま掲載する。

(五十川)選挙に関する情報はインターネットやITの力では自分たちで探さないと手に入らないんですよね。そこをどうしていくのか、プッシュ型のメディアじゃないから。

(福島)そこも含めて考えていかないと、皆が皆すごい勉強家になれっていうのもまたきついかなとは思うんです。皆が皆プロ投票家になれというのは難しいですよね。

(五十川)いや、皆が皆考えればいいんです。

(福島)まぁ、そうなんですけどね。そうなんですけど。

(五十川)僕が言ってることや政策が正解かどうか、そこはもうどうでもいいんですよ。各々が考えて、こいつ面白いと思えば入れてくれればいいし、そうじゃなければ入れなくていいんだから。ただ、そこにちゃんと本気で戦ってる人がいるという前提を小馬鹿にした状況はやめてほしいなと思う。

(福島)小馬鹿にした状況…

(五十川)政治家はクソだという前提、政治じゃ変えられないという前提は本当にやめてほしい。
それは、挑戦している人たちに対して失礼だし、その状況は本当に変えてほしい。
僕のことじゃないんですよ、僕はもうちょっとその…ゲスな野郎かもしれないですけど、周りで見てて本当に悲しくなっちゃうこともたくさんあるので、皆が感度を立てて、短い選挙の期間だけでもいいので、ちょっと見てもらえるといいな、と思います。

以上、五十川さんの熱いメッセージで幕を閉じた今回のモチモチトーク。
この日は、「IT×選挙」というタイトルから、洋画に出てくるハッカーのイメージで衣装を決めてきたという。

本気で戦っている人を応援し、選挙を自分事として考える。五十川さんの思い描く選挙のあり方はテクノロジーを取り入れることによって今後実現していくだろう。
まずはコーヒーでも飲みながら選挙について気軽に話し合ってみるところから始めてみてほしい。そこから社会を変える何かが生まれることもあるかもしれない。

話し手
五十川 員申 氏
(cafe?IKAGAWA DOオーナー、元野々市市議会議員、元Code for Kanazawa理事)

聞き手 福島 健一郎
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、
アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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