#39

2019.09.05

ゲーム依存症ってどんなもの?eスポーツ時代のゲームと の付き合い方

担当ディレクター:福島 健一郎
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

2019年9月5日、第39回は、
「ゲーム依存症ってどんなもの?eスポーツ時代のゲームと の付き合い方」。
聞き手は、久松陽一ディレクター。

今やオリンピック種目の候補でもある「eスポーツ」は、日本でも大きな盛り上がりを見せ始めています。
ITビジネスプラザ武蔵にも6月、金沢eスポーツ工房が開設されました。さらに海外では、16歳のプレイヤーが3億円以上の優勝賞金を手にするなど、他のプロスポーツと変わらないレベルとなってきています。
一方で、昨年6月にWHO(世界保健機関)が、ゲームにのめり込み、生活や健康に深刻な影響が出た状態を「ゲーム依存症」として正式に精神疾患と位置づけたこともあり、プレイヤーの依存症を心配する声も聞かれます。今回のモチモチトークでは、そもそも依存症とはどういうものなのかを、石川県スクールカウンセラーの植田先生からお聞きしながら、ゲームとの上手な付き合い方を考えていきたいと思います。

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講師資料

日常と共にある“依存的なもの”

・手が空くといつもスマホを見ている
・家に帰ったら毎晩缶ビールを呑んでいる
・チョコレートが手元にないと落ち着かない
・毎日遅くまで仕事をして、帰って寝るだけの生活
・いつも困った人ばかり好きになってしまう
これらの風景は、今の日本で日常的に見られるものだろう。

よく見ると、依存的なものは世の中に数多く存在している。

例えば、デイリーボーナスやランキング制度等でユーザーを惹き付けるゲームが様々な業界で提供されていたり、実は中毒性が高く脳に直接影響のあるアルコールを毎日買って飲んでも罪にはならなかったりする。

他には、スポーツ等の競技に毎日打ち込み、それが当たり前の生活で、その結果として成果を残すことができた人もいる。この社会的評価は、日常生活の多くを犠牲にして得られたものではないだろうか。

どれが依存的であり、どれにハマりこんでいくと依存とみなされるのか。
それは、その時の社会の制度や空気によっても異なっていく。

「社会によって気づかれにくい依存症もある」ということを少し意識しておいてほしい、と植田さんは話す。

依存症の種類と特徴

動物のショーなどでは、芸ができると報酬としてエサがもらえたりするが、人間は自らそのエサとなる反応を脳内で作り出すことができる。
これは脳内の“報酬系”と呼ばれる回路によるもので、食事、睡眠、目標達成、瞑想、善行、悪行にさえも、人間は様々なことに快感を見出す。

人は快を感じると、脳の内側前脳束(報酬系)を中心に複数の脳内部位が活性化する。この神経回路は、電気ショックや薬物によって強制的に活性化することもできる。
同種の反応が継続して反復的に与えられると、脳内の神経回路に長期的な変化が生じ、脳はこの変化した回路を記憶する。これが依存症の根幹である。

依存症者とは、快楽を求めている人ではなく、それが面白くてやっているわけでもない。
それが楽しかったり快感だった時期はとうに過ぎてしまい、辛いのに止められない状態を指す。

依存症は、依存する対象によって大きく3つに分けられる。

1)物質依存
物質摂取に伴う変化や快感に対する依存
例:アルコール・薬物・喫煙・カフェインetc.

2)行為(プロセス)依存
ある行為の開始から終了までの過程で得られる快感への依存
例:ギャンブル、買い物、ネット、TV、ゲーム、仕事etc.

3)関係依存
ある特定の人・集団との人間関係に対する依存
例:性、宗教、DV、共依存etc.

3つの依存は、それぞれが流動的・複合的に絡み合う。
依存症の中で最も身体的な影響が強いものは物質依存だが、物質への依存をやめると、他の対象への依存が強くなるなどの影響が出ることも多い。
これらの依存症を別々のものとして考えるよりは、何かに依存していないと心が穏やかでいられない状態が根底にあるものと考えられる。
満たされない自分自身を、心以外の「何か」を使って自分なりに満たそうとする試みのひとつであり、快楽の追求というよりは、苦痛の軽減が目的になっている。

依存症の特徴として挙げられるのが、
• ある対象や行為への異常なほどの執着
• コントロールできないほどの渇望や衝動性
• 自分が依存症の状態にあることを否認する
• 耐性形成による感覚の麻痺と過激化
などだ。

日常生活に深刻な問題が生じても、周囲の人間に制止されても、繰り返してしまう状態が依存症であると判断される。

なぜ依存してしまうのか?

依存しやすい体質の人がいる一方で、依存を引き起こす物質を摂取したり、何かしらの行為を繰り返しても、依存症にならない人もいる。

根底にある「満たされなさ」を別の形で埋め合わせようとしているのが依存症であるため、依存対象を引き離したところで別のものに移っていくということは非常に多い。

依存症になりやすい素因としては、体質的なもの、心理的なもの、環境的素因などがある。

「これもセットで覚えておいていただきたいのですが、なんでも障害とか病気だとか思わないでほしいんです。もう本当に他の人と比べてどうしてもこれが難しいというときに、こういう名前を付けることで、その特性や状態がハンデにならないように守ってあげようというものなので、あまり安易に自分はそうかもと思っていただきたくないなと思います。

回復への道のり

依存症が一人で起こるのは稀で、依存症者がいるときには、依存症を維持させるような家庭環境や周囲の人たちとの関係があることが多い。
「あの人はやっぱり、私がいないとだめなのね」と、なぜかいつも困った人のために尽くしている人はいませんか。
一見被害者で、自己犠牲的な“いい人”のように見えるけれど、実際には相手を結果的に依存物質や自分に依存させ、依存的な関係を維持し、相手の依存症を強化してしまっていたりすることがある。

そのような依存症者との関係性に依存する人たちを“共依存”と言う。
家族や周囲の人たちも、自分自身のこととして依存症を考えていく必要がある。

つまり、依存症者だけが、依存しているとは限らないのだ。
誰かに依存されていることで、はじめて自分の存在意義を確認できる人たちもいる。
共依存者には幼少期から依存症的な親に苦しんできた人が多く、自分の意志ではなく気が付いたらそうなっていることもあり、共依存の人だけを責めることができない状況もある。

人は、私を私として大切にしてくれていると感じられるような愛着関係を通して「自分以外の人間を信頼してもいいんだ、自分はここにいていい人間なんだ」といった他者への信頼や自己肯定感が育っていく。
しかし、愛着関係の存在意義はそれだけではない。そういった幼少期の養育される体験を通じ、子供たちは「自分が今感じている感覚」を知り、その伝え方をも学んでいく。

例えば、子供が転んだとき、子供自身は何が起きたかわからず、とにかくショックで泣く。
そこに親が駆け寄ってきて、「転んじゃって痛かったね」と温かく声をかけてくれることで、子供は安心感と共に、自分が今、転んで痛いから泣いていたんだということに気付く。そうやって、自分の行いを客観的に観察し、自分の感覚を人に説明できるようになっていく。

特に依存症の人たちは「自分が何を感じているのか」という感覚が鈍くなっていて、本人自身も忘れようとしている人が多い、と植田さんは言う。

依存が進行し、快楽よりも苦しさが勝り始め、大切なものまで失ってしまう体験を「底つき」と呼ぶ。 そこから脱するためには、まず自力でコントロールできない状況を認め、助けを求めることが必要になる。

本人が「抜け出したい」と思うことが治療の最初の一歩ではあるが、1人で回復することは難しい場合もある。その場合、家族や仲間と専門家の協力が必要となる。

アルコール依存症が否認の病と呼ばれるように、最初から依存症者が専門機関へ相談に来ることは珍しい。
しかし、まずは家族が相談機関に来談するだけでも良い。依存症について周囲の人間が学び、自分にできることはないかを考え始めること自体に意味があるのだ。

治療プロセスとしては、専門機関への受診・相談から始まり、必要に応じて定期的な通院による診察やカウンセリング・専門プログラム・入院などの治療プログラムを経て、同じ立場にいる人同士の相互支援(ピア・グループ)につなげていくという形が一般的だ。

ゲーム依存症とは

2018年6月に国際疾病分類(ICD)に「ゲーム障害」が採用され、2019年5月には正式に認定された。

ICD-11(2018) …世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第11版より
Gaming disorder(ゲーム障害)
① ゲーム活動をコントロールすることができない
(開始・頻度・強度・時間・終了・コンテクスト)
② ゲームをすることの優先順位が、その他の生活上の関心事や日常活動よりも高くなっている
③ 悪い結果が生じているにもかかわらず、ゲーム活動が持続もしくはエスカレートしている
• 持続的または反復的なゲーム活動により、個人的・社会的・学業的・職業的、その他の重要な機能領域(ファンクション)に著しい障害をもたらすほど重篤な状況
• 診断には、少なくとも12か月の期間にわたる上記症状が必要だが、より深刻な場合は短縮される可能性もある。

ゲーム依存症について、他の依存症との違いや特徴には以下のようなものがある。

• 酒や薬物のように脳に直接物質を摂取するものではないため、身体的依存は生じず、精神的依存が課題となる
• ゲームをする行為自体は、非行や飲酒等と比べれば直ちにトラブルと結びつく類のものではない
• いつでも、手軽に一人でもできるので、生活リズムや人間関係に影響が起きやすい
• お金をかけると大きな報酬が得られる場合、経済的なトラブルに発展することもある
• ゲーム内の関係や順位、報酬が依存を強化する

自分がゲーム依存かどうかを振り返ってみる方法としては、ゲームを一日しない、一週間しない、ずっとしないと考えたときに、自分がどんな気持ちになるか、実際それができるかどうか、どんな衝動が出てくるかということがヒントになるだろう。

ただ、ゲーム依存状態になったとしても、3割程度は1年以内に自力で回復をするという研究結果があるそうだ。

そもそも、ゲーム自体がそこまで魔力を持っているわけではなく、すべての人が依存症になるわけではない。何か元々の満たされなさがあって、それをゲームという形で埋め合わせようとする、依存とはそういう彼らが生きるための営みの一つだと理解してほしい、と植田さんは言う。

「ゲームをやる中でいろんな出会いがありますよね。その中でコミュニケーションが取れて、ゲームをするだけじゃない、豊かな体験が起こってくるのであれば、依存症になりにくいのかなと思います。
例えば、家族がゲームに興味を持ち、一緒に体験してみるとか、教えてもらったり、感想を語り合ったりしてみることが、私は効果的なんじゃないかと思っています。」

ゲームはあくまで「物」であると認識し、ゲームを介して人と人とのつながりを作ることができれば、依存を回避することができるのかもしれない。

一番危険なのは、本人の同意を伴わない廃棄や通信遮断。
信頼関係を棄損してしまうと、一緒に治療をしていくことが難しくなる。無理にやめさせようとすると、もっと悪いほう(暴力や薬物等)に向かってしまう可能性もあるため注意が必要になる。

依存の仕組みを知ることが大切

依存症というのは、専門の医師が時間をかけて一人一人話を聞いて、やっと診断するものであり、その境界は曖昧なグラデーションになっているため、どこからどこまでと明確に分けることはとても難しい。
依存症という言葉を安易に使うのは気をつけたほうがいい、と植田さんは繰り返す。

「依存的なものは世の中にたくさんあります。名前を病気として捉えるのではなくて、こういう風な生き方や人間関係の困った側面というか、陥りやすい側面というものがあるということを意識しながら生活していただく。多くの方はそれくらいでいいんじゃないかなと思います。」

仕事依存などでは、仕事や社会に依存する形でがむしゃらに努力して、結果的にそれが評価されて自己肯定につながっていくケースもある。依存するということが必ずしも社会的にネガティブに働くとは限らないこともある。

酒を飲めることが社会的な信頼につながるというような時代もあった。上司と一緒に煙草を吸うことで信頼を得て、昇進に良い影響があるという話も耳にすることがあるだろう。
人生は何がどう転ぶか分からない。

ゲームに関しても、プロゲーマーになってゲームで生活していくというのは簡単なことではないが、ゲームに没入した経験を生かしてゲームの関連領域等で働いていくことができるという場合もある。

傍から見たら明らかに依存であるけど、それによって、人生が拓かれていくこともあるかもしれない。 場合によっては治療が必要なほど苦しいものとなる場合もあるけれど、依存は多面的で、様々な見方ができるということも知っておくことが大切なのだろう。

「本当の意味で自立してしまうと、それは孤独ですから、孤独ではなくて社会の中でほどほどの距離を持って、適切な関係で適切な距離感でそれなりにやっていけるくらいのバランスがあれば、それはそれでいいんじゃないかと、私としては思います。」

人は誰でも何かに依存しながら生きていると言える。
一つのものに対する依存が日常生活に被害を及ぼすほど大きくなってしまうと問題が起こるが、色々なものへ適度に依存しあうことは、健康的な依存とも言えるのかもしれない。

依存症理解に役立つ書籍

植田先生より、おすすめの図書を紹介いただきました。

依存症の脳科学的メカニズムに関して
「快感回路なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか」
デイヴィッド・J・リンデン/岩坂彰河出書房新社

人間関係の視点から依存症を読み解くために
「愛着障害としてのアディクション」
フィリップ・J・フローレス(著), 小林 桜児 他(翻訳) /日本評論社

ゲーム依存の概説と日本における治療実践の紹介
「ネット依存・ゲーム依存がよくわかる本」
樋口 進/講談社

•共依存の理解と支援に関して
「『家族』という名の孤独」
斎藤 学/講談社

話し手
植田 峰悠 氏
(公認心理師・臨床心理士、石川県スクールカウンセラー)

聞き手
福島 健一郎
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、
アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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