#52

2021.07.12

コロナ禍に負けるな ~スモールビジネスがコロナ禍を乗り切るためには~

担当ディレクター:杉守 一樹
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

令和3年7月12日、第52回のモチモチトークは、「コロナ禍に負けるな ~スモールビジネスがコロナ禍を乗り切るためには~」。
聞き手は、杉守 一樹。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全国的に広がりを見せる中、スモールビジネスに携わる多くの方々が経営面で悪影響を受けている。
そのような状況を打開すべく、経営にフォーカスした現状を乗り切るための対策・施策などを行っているのが、金沢エリア最大手の会計事務所・中山会計の田村さんです。
この1年を乗り切った事業者の例などを含め、経営者目線でのお話を伺いました。

【ゲストスピーカー】
田村 誠司 氏(税理士法人中山会計 会計部部長)

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税理士法人中山会計は、税務代理や税務書類作成、そしてそれに関わる財務書類作成、会計帳簿の記帳代行、経営相談などをメインに行っている会計事務所だ。補助金や給付金などの相談や情報提供などの対応も行っているのも強みである。


創業してから50年あまりと歴史もあり、創業当時からお付き合いのある老舗の企業をはじめ、会社成長期であった10年前ほどからお付き合いのある若手企業まで幅広い。


そんな中山会計で会計部長を務める田村さん。入社してからの13年間では、法人設立や確定申告の支援をしてきたという。今は管理職ではあるが、実際に現場でも働いており、担当者としても活躍中だ。


スモールビジネスの現状

コロナ禍で大きく市場が変わってきている昨今。石川県においての状況を聞くと、やはりダメージは大きかったようだ。特に金沢市は北陸新幹線の影響もあり、観光客をメインターゲットにしている事業者も多く、金沢駅周辺や東山、兼六園付近では、かなり大きなダメージを受けている。

なかでも一際影響を受けたのは、やはり飲食や観光系の事業者。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響を直に受け、その波によってアップダウンが激しかったという。

また、この1年間は厳しい状況が続いた影響で、いくつもの飲食店が閉店・廃業し、店舗数を縮小した会社も多い。今年はなんとか耐えしのいではいるが、現状が続くと来年はわからないと嘆く声も多く、その声は切実である。

一方で、M&Aで存続する企業もあり、廃業するのであれば次の担い手を見つけ売却する動きもあるという。

その中で少しずつ良くなっている兆しもある。実際は、この状況に黙ってみているだけの企業は少なく、試行錯誤しながら動いている企業がほとんどだ。

今後もしばらく続くであろうコロナ禍。耐え忍ぶ体制を整えないと存続自体が難しいお店も多い。

「元に戻るってことは多分ないと思います。今は、ウィズコロナの状態だと思いますが、アフターコロナっていうことを考えて、コロナ収束後でも続けられるように考えていかないといけないと、経営者の方には伝えていますね。」

コロナ禍を乗り切るには

大変なことばかりが多いコロナ禍。これからは、5つのステップに沿ってコロナ禍を乗り切る必要があるという。

STEP①現状の資金を知る
コロナ禍を乗り越えていくためには、まずは経営のデットラインを知っておくことが重要だ。

コロナ禍の影響で、会社や店舗の売上より支出が上回っている企業も多いはず。スモールビジネスの飲食・宿泊業は、特に体力が少ない傾向にあるため、資金の流れを具体的に知る必要があるのだ。

「売上の有無に関わらず支出する資金」「売上による資金流入」「仕入れや外注による資金流出」の3つを洗い出し、「理想」「現実」「悲観」の3パターンの資金計画表を作成。

ポイントは、手持ちの資金がどんな場合であれば、いつまでショートしないかを知ることだ。通常であれば3か月から6か月ほどの間、まかなえるようなお金を用意しておくのがベストだが、売上が上がりにくい今はそれ以上のお金を蓄えている必要があるのだ。

STEP②固定費の見直し・削減

経営していく上で、売上の増減に関わらず、固定費を見直して経営の負担を軽くするのも重要だ。

運送費や外注費、交際費など売上に比例して増減する変動費に対して、地代家賃や人件費、リース料など売上の増減に関わらず発生するのが固定費である。

固定費を削減するためには、賃料を交渉したり、光熱水道料のプランを変更したり、保険やリースを定期的に見直したりすることが重要になってくる。また、元帳を確認し、購入品の仕訳を行い、本当に必要なものかどうかを見直しすることが大切だ。

STEP③資金調達

売上回復までの資金計画が把握できたところで、回復までに資金が足りない場合には、資金調達して今後に備えていくことも必要である。主な資金調達の方法は、借入・融資や給付金、そして補助金助成金といったこの3つ。

新型コロナ特別貸付、持続化給付金、一時支援金、ものづくり補助金や家賃支援給付金など、多種多様な資金調達方法がある昨今では、いかに情報を掴むかが鍵になると田村さんはいう。

「調達方法に関しては、本当にいろんな種類があります。この辺は、常にアンテナ張って情報を掴むことがポイントです。会計事務所はもちろん、銀行や商工会議所などとも相談しながら情報を集めていくのがすごく大事ですね。

石川県であれば、石川県産業創出支援機構(ISICO)もありますので。これらは、 全部認定支援機関と呼ばれるものです。あまり聞きなじみのない言葉かもしれませんが、ぜひ覚えていただいて欲しいです。いろんな情報をもっているので、ぜひ認定支援機関を活用していただければと思います。」

STEP④事業の見直し・再構築

コロナ禍が収束しても、今までと同じやり方で売上が元どおりになるとは限らない。コロナ禍だからこそ、今一度自社の強みやこだわりを分析し、見直すことが必要不可欠となってくる。

事業を見直す際には、企業や事業の現状分析をするときなどに使うSWOT分析がおすすめだという。SWOT分析とは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunit y)」「脅威(Threat)」の頭文字を取ったもので、この4つの要素を使い分析を行っていくものだ。

強みや弱みなどを分析し、事業の見直しができたら次にすべきことは、世の中の変化したニーズをキャッチしていくこと。商品やサービスをどう打ち出していくか、提供するかで売上の増減も変化していく。既存顧客やクライアントの生の声こそが最大のヒントとなり、1番新鮮なニーズを調査できる。

STEP⑤アクション

商品やサービスの活かし方の幅が広がったところで、今度はこれらをもとに既存事業を推進するのか、それとも事業転換して新規事業を起こすかを考える必要がある。

そこで使うのは、成長戦略の基本である「アンゾフの成長マトリックス」だ。事業の成長を「市場(顧客)」と「商品・サービス」の2軸で示し、その2軸をさらに既存と新規に分けることにより、用途を分けて考えるフレームである。コロナ禍のいまにおいては、コロナ禍向けの新サービスと、既存客向けのサービスを分けて考えてみるということもひとつの例としてあげられる。

そういった事業例はさまざまあるが、コロナ禍を乗り越えるために参考になるツールや事例を無料公開しているおすすめのサイトがある。経済産業省が出している「ミエル☆ヒント」だ。業種や課題などをチェックしていくだけで、自社の状況に応じた成功のヒントが見つかる優れものだ。

知っておきたい補助金

さまざまな補助金があるなか、トレンドにもなっている「事業再構築補助金」を紹介していただいた。

「事業再構築補助金」は、コロナの影響を受けた事業者の事業再構築を支援する補助金のことだ。ポストコロナの経済社会に対応するための事業者の思い切った事業再構築にかかった費用の2/3を支援するという補助金である。その予算は、55,000社に1兆1,485 億円と史上最大級。今年の3月から募集を開始し、複数回にわたって実施中の補助金制度だ。

しかし、採択されたからといってすぐにお金がもらえるものではない。まずは全額自費で持ち出しをしたあとに、国から2/3がもらえるのだ。だからこそ、資金力に余裕がないとなかなか難しいという。

「新市場に新商品をぶつけることと同じことであり、素人が初めて事業をやることとほぼお同じことです。そういった面でもリスクが大きいと思います。

補助金の入金があるのは、実際は1年後。そのあたりもきちんと資金繰り表と照らし合わせて確認するのがおすすめです。

ここでも大切なのは、自社をしっかり分析をし、強みや弱みを把握した上で事業を見直すことです。補助金は、そういったことを見直すきっかけにもなると思いますよ。」

コロナ禍でスモールビジネスが厳しくなっている昨今。そんな今こそ、原点に立ち返り、ビジョンを再構築する良いきっかけなのかもしれない。

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話し手
田村 誠司 氏
(税理士法人中山会計 会計部部長)

聞き手
杉守 一樹
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社D ynave 代表取締役)

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