#58

2022.07.31

女性だからできる事業の生み出し方、育て方

担当ディレクター:小幡 美奈子
毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。2022年7月31日、第58回は、「女性だからできる事業の生み出し方、育て方」。聞き手は、小幡 美奈子。
「それは事業ではない」「需要があるのか?」「儲からない」などと言われながらも、自分が必要だと感じた事業をコツコツと育て、数々の賞を受賞してきた制服リユース店「リクル」代表の池下奈美さん。母として、妻として、家庭と事業を両立させる働き方や苦難の乗り越え方などをお話ししていただきました。

【ゲストスピーカー】
池下 奈美 氏(制服リユース リクル 代表)

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リクルの事業内容

「リクル」は制服専門のリユースショップ。金沢市の鳴和にある金沢店と、川北大橋を渡ったすぐそばにある能美店の2ヶ所で営業中だ。

制服を活用した3R「Reuse(リユース)」「Recycle(リサイクル)」「レンタル)(Rental)」を軸としながら、大切な資源を地域で循環し、ゴミの減量化に繋げ、家庭にも環境にも優しいお店を目指している。

メインであるリユース事業では、役目を終えた制服や体操服等を買取り、点検、補修、クリーニング等のメンテナンス後、低価格で販売している。使い終わったものをそのまま売る大手のリサイクルショップとの相違点は、徹底されたメンテナンスだ。使い終わった使用感のあるものをできる限り綺麗にし、次の人が着られる状態まで綺麗にしてバトンタッチするために、メンテナンスにはかなり力を入れている。ポケットを全部ひっくりかえして埃やゴミ屑を全部とるところからはじまり、ほつれはミシンで縫い直し、ボタンをつけ、漂白、洗濯、クリーニングまで。愛情と手間ひまをかけて、次の人が気持ちよく使えるようにメンテナンスをして、低価格で販売しているのが特徴だ。

「卒業間近であと数ヶ月しか着ないよという方も多く、高価格なものよりも低価格なもので卒業までもてばいいという方も多くいらっしゃいます。価格を変えて、その方に合うものを提案するようにしています」

レンタル事業では、必要な時だけ制服を活用してもらうための制服レンタルを行っている。その幅は多岐にわたり、学校に通っているお子さん用をはじめ、文化祭などのイベント時や、映画やCMの撮影にも活用されているそうだ。

リサイクル事業では、ダメージのある制服をバッグ等の商品にするリサイクルを行っている。制服は、バッグやミニチュア制服を着たぬいぐるみなど、手元に置いていけるようなアイテムへと変身。思い出の詰まった制服を最後まで大切にしてほしいという思いで丁寧にリメイクしている。

リクルが生まれたきっかけ

「息子が中学生の時に、買ったばかりのズボンの膝を破って帰ってきたことがあったんです。でも新品の制服は1万円前後と高価。そんな高価なものを買ってもまたすぐに破ってきたら発狂しますよね。だから中古で十分だと思ったんです。でもおさがりをもらえる人がいなくて……」

おさがりがもらえずリサイクルショップへ走った池下さん。しかし、制服の取り扱いがなく、泣く泣く新品を買うしかなかったのだそう。

「この時初めて思ったんです。自分のように制服で困っている人がいるのではと。おさがりの制服を買えるお店がないんだったら自分が作るしかない、と思ったことがきっかけでした」

実は、石川県は約85%もの小学生が制服を着用しているというデータがある。全国の公立小学校の制服導入ランキングをみると、全国平均が20%。石川県は全国的にみると制服導入率が高く、制服を必要としている人が多い地域なのだ。

「それだけ多くの子どもたちが制服を着用していますが、制服が循環する仕組みって今までなかったんですよね。制服を使い終わったら処分するか、タンスで眠らせておくしかなかったんです。母親同士の繋がりが薄くなり、以前は普通にあった「おさがりの習慣」が少なくなっていたんですよね」

リクルの歩み〜反対された事業をどう育ててきたか〜

自身の実体験から「制服リユース店があれば救われる人がいるのではないか」と思い、リクルを立ち上げようと一念発起した池下さん。しかし、そう簡単にはうまくいかなかったという。

まず立ちはだかったのは夫だった。「家庭優先」という考え方をもった夫を説得する必要があったのだ。「家庭優先」という条件付きでなんとか許しをもらったものの、はじめた当初はそのバランスをとるのが難しかったという。いろんな場面で反対されぶつかりながらも、今では家庭と仕事の両立ができるようになり、夫から応援してもらえるように。

1番難関だった夫からの承認を得た池田さんだったが、すぐ次の問題が立ちはだかる。

「夫の承認を得たものの、開業資金もなく、ツテもありませんでした。どうやったらやりたいことが実現できるかわからなかったので、とにかく人がいるところに出向き、アドバイスをたくさん聞きに行き、実行していったんです」

そして知り合いの経営者からのアドバイスを元に、まずは店舗を持たずに間借り販売からスタート。しかし世間の目は厳しく、「制服リユース」をいう言葉がまだ浸透していなかった当時は怪しまれ、時には心ない言葉も浴びせられたそう。

そんな時、「言葉ひとつでイメージが変わる」と言われたことが転機となる。

「それまで、制服は買取りしなければいけないものだと思っていました。でも、無料で集めて安く売る方がいいんじゃないかとアドバイスをもらったんですよね。それから、”買取りします”から”お譲りください”の言葉に変えた方がいいんじゃないかって。言葉一つで方針は変わっていくのだというアドバイスをもらったんです。『”心を込めて橋渡しします”という言葉がぴったりなんじゃない?あなたがやりたいことはそういうことでは?』と言われて。その言葉は今でも大切しています」

その言葉に出会ってからリクルの概念が多くの人からの共感をよび、間借りの店舗を卒業し、自分の店を構えることもできるようにまでに、どんどん成長していくことに。当初はなかなか集まらなかった制服が、今では累計3万着超え。金沢と能美を合わせると、今は6,000点以上の制服がメンテナンス済みで、店頭に並んでいる。

「今までだったら処分していた制服を、使わない人からリクルに譲っていただいて、次に着る人へバトンタッチすることで『もったいない』を『ありがとう』に変えていけるようになりました。おさがりのいい循環がどんどん生まれているように感じます」

リクルが広がっていった理由

最初は誰からも相手にされず、「リユースってなに?」という状態からスタートだったリクル。しかし、何があってもチャレンジし続けてきた池田さんのひたむきな行動が、だんだん花開くようになってくる。その大きな理由のひとつは、メディアへの露出だった。

「お店をオープンして1ヶ月くらいの時にお店のブログをみた新聞記者さんが取材に来てくれたんです。しかもまさかの大きな記事がでて。お客さんがゼロの状態から突然、次の日お店の前に行列ができたんですよね」

新聞に載ったおかげで、新聞をはじめテレビなど他のメディアからも次々と取材オファーが殺到。それがさらに口コミへと広がり、確実に認知度を広げていったのだ。

「たくさんのメディアに取り上げてもらったおかげで、口コミでどんどん広がっていったように思います。広告費を出せるほど儲かっているわけではないので広告はほとんど出していないのですが。やはり、ママさん同士の口コミが今は一番の広告塔だと思っています」

とはいえ、メディアだけに頼らずブログなどへの更新も欠かさなかった池下さん。地道な発信があったからこそ、メディアにも目につけてもらえたのだろう。

「リクルのホームページ(やブログ)を作ってくれたのが、いま目の前にいるみなこちゃん(小幡さん)なんです。とある起業イベントで意気投合して。私の想いをたくさん聞いて、ホームページへアウトプットしてくれました」

また、リクルの認知度を高めたもうひとつの理由が、クラウドファンディングだ。店舗を出す資金集めとして行ったが、当時はクラウドファンディングが盛り上がり始めていた時で、資金集め以上に認知度向上に打ってつけだったという。資金も集まり成功を収めたと同時に、認知度獲得にも成功を収めたのだった。

そんなリクルは、これまで数々の賞を受賞。信頼度も高めてきた。
SDGsジャーナル代表理事の方に「リクルの活動はSDGsだ」と提言してもらったことをきっかけに、「貧困」や「作る責任」など、リクルに当てはまることを意識しながらSDGsを絡めての発信が功をなしていく。

・「いしかわエコデザイン賞」銅賞
・「環境省 グッドライフアワード」エシカル賞
・「SDGsスタートアップコンテスト」ボーダレスジャパン特別賞
・「価値デザインコンテスト」SDGs日本賞
・「いしかわ女性のチャレンジ賞」

たくさんの賞を受賞したことで信頼に繋がり、「リクルは怪しい店」という扱いをされることはなくなった。

「情報発信の仕方でイメージがガラリと変わることを知りました。発信や発信内容ってとても大切なのですね」

リクルは生きがい

「リクルをやっていることが自分の生きがいになっています。細くてもずっと続けていける、やりがいのあるお店を作っていければそれでいいんじゃないかなって思っていて。人の役に立てた喜びで心が満たされて、生きづらさを感じなくなりました。ありがたいです」

起業したことでやりがいを見つけて毎日が楽しくなった池下さん。人の上に立つことも、人前に出ることも苦手でネガティブな性格だったが、リクルをやり出してから後悔が減り、自己肯定感がアップして、毎日楽しく過ごせているという。

きっと今日も制服を通じ、やさしい循環が生まれていることでしょう。
まだまだ池下さんの挑戦ははじまったばかり。今後の活躍も楽しみです。

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話し手
池下 奈美 氏
(制服リユース リクル 代表)

聞き手
小幡 美奈子
(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、ウェブマルシェ代表)

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