#68

2024.02.15

能登半島地震で私たちができること - お金を循環させ繋がりと社会資本を作る –

担当ディレクター:福島 健一郎

毎回、さまざまなジャンルで活躍する方々をゲストスピーカーに迎え、彼らの活動事例などから新たなビジネスにつながるアイデアの糸口を探るディレクターズトークセッション。

令和6年能登半島地震で多くの方々が被災されました。そしてその復旧・復興に向けて、県内はもちろん、全国の多くの方々が支援を始めています。
石川を拠点とするコミュニティ財団である公益財団法人ほくりくみらい基金も地震発生直後から状況に合わせて多くの支援を行い、現在も地震の支援にあたる地域の団体などに助成を行っています。
まだまだ復旧・復興は長く続く中、私たちに何ができるのか考えてみたいと思います。

ゲストスピーカー:永井 三岐子 氏(公益財団法人ほくりくみらい基金 代表理事)

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石川県金沢市で設立された、ほくりく未来基金。代表の永井さんは、国際協力機構(JICA)や国連大学にて、一貫して途上国での環境分野の国際協力業務に従事してきた。今回の能登半島地震でいち早く支援ができるよう動き出した財団は、2月15日現在、寄付金が3300万円を超えている。

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ほくりくみらい基金設立までの経緯・コミュニティ財団とは


令和6年能登半島地震があった翌日に「令和6年能登半島地震 災害支援基金」を立ち上げた永井さん。ほくりくみらい基金はコミュニティ財団というジャンルに分類され、「公益財団法人」となっている。調べてみると「自法人の利益の追求だけでなく、社会にさまざまな好影響を与えることを目的に活動する団体」と定義されている。ほくりくみらい基金は、「未来も自分の力で変えられる」をビジョンに掲げ、「未来はつくれる!」と誰もが思える社会の実現を目指す。

行政の支援は税金を使って行われるため、公平性を重視し、審査が厳しかったり、欲しいタイミングで支援がもらえないなど、不便な面が否めない。また、地方は特に長いものには巻かれたほうが安心する傾向にある。もっとこうしたい、自分の地域が良くなってほしいと願っても、行動を起こさない、起こせないこともあるそうだ。

また、活動を続けたくても、ひとりでは難しかったり、資金が足りなかったりと、いろいろな理由で進めない人や団体を見てきた。石川県で「やってみよう」と立ち上がった人たちをみんなで応援する、それはお金だけではなく仲間作りの面でもサポートをして市民活動を支援している。

ほくりくみらい基金の活動について


ほくりくみらい基金の活動としては、市民活動団体への助成、寄付の促進、そして人材育成まで対応する。市民や企業、行政などが集まって対話し、参加者がお互いの活動や取り組みを理解し合うことで、連携や協力できる機会を作る。その他にも助成金を分配した団体の取り組みの紹介や石川県内の市民団体に地域活動や取り組む地域課題などのヒアリングを実施している。

東京にはプロボノと呼ばれる、職業上のスキルや経験を生かして取り組む社会貢献活動を行う人とマッチングできるサービスが活発で、永井さんは石川県の市民活動団体やプロボノを結ぶコーディネーターとしての役割も果たす。県外からの問い合わせにもほくりくみらい基金が窓口となってマッチングさせたこともあるそうだ。

力を入れていきたいのは市民からの寄付である。課題解決に取り組む人にとってお金は必要なもの。日本では欧米に比べて寄付文化か浸透していない。ほくりくみらい基金のビジョンやミッションを伝えると、これからの日本には必要な活動だと一定の評価をいただけるものの、石川県の企業に働きかけても積極的なところはまだまだ少ない。もちろん個人でも1000円から寄付は可能だ。寄付を促すため、ほくりくみらい基金の活動をわかりやすく伝えることも活動のひとつとして重きを置く。

2023年に行われた取り組みについて

2023年度に「ほくみの学校」という全4回の対話型ワークショップを開催した。これはほくりくみらい基金創設のときに幅広くヒアリングをしたときに「活動をはじめることはできたけれど、この活動をどう継続し、どう発展させていくのか、どう進んでいけばいいのか悩んでいる。そのサポートが欲しい。」という声が多く寄せられたのがきっかけだ。地域で活動する方々が集い学びを深めたり、お互いの活動を理解したり、悩みを共有する場を企画し実現した。

ここでさらに進みたい団体は申請を行い、「ほくみの学校」を通して明らかになった次のステップのための取り組みに対して助成金を支給。実践をしてもらい報告書を提出し、最終報告会を公開型で行うというプロセスで、基盤強化を支援する「次のステップ」も企画した。申請が通った団体は赤ちゃんの支援から発達障害の子どもの支援、ヤングケアラーや農業振興など活動分野もさまざまだった。

ほくりくみらい基金が支援した能登半島地震での活動


まだ設立して2年というほくりくみらい基金が大きく動いたのが、能登半島地震だ。全国コミュニティ財団協会(CFJ)と緊急会議を行い、地震が起こった翌日には災害支援基金を設立した。1月12日には第1次緊助成プログラムの公募を開始して、審査の結果12団体に210万円を援助。第2次、第3次と緊急助成を行っている。2回の緊急支援に応募した団体を見てみると、地震後に発足した団体も多くみられる。炊き出しチームや子どもたちのケアなど、援助が欲しい被災地にスピーディーに対応したい市民団体にとってはすぐに資金サポートしてもらえるところは貴重だ。

コミュニティ財団は全国にあり、横のつながりがある。永井さんが迅速に対応できたのは、すでに大地震を経験した熊本県や福島県などの財団から助言をもらい、復興支援で動いた財団からも客観的な意見をもらうなど、全国から支援や援助をいただけたおかげだという。

しかし、これらの活動について、裏方の仕事をボランティアで続けるわけにはいかない。寄付額のうち15%を、災害支援にかかる当法人の運営費にあてていることも明記する。ほとんどの人は寄付をした時点で自分が寄付したお金が何に使われたのかまで気にかけない人も多い。でもコミュニティ財団は、市民から集まったお金を管理ししかるべきところに助成を行うため寄付金の使い道については、どこで何に使うかまでお伝えすることが大切と、ホームページやSNSを活用して情報発信を行っている。

震災直後からほくりくみらい基金には寄付の金額は増え、2月15日の時点で3300万円を超える寄付が集まる。緊急支援としては1000万円ほどを使う予定だが、中長期的な復興時にも資金援助ができるよう、寄付金をどう使うかは話し合っている。ちなみに目的が令和6年能登半島地震の災害支援活動に対する助成を行うためという目的がはっきりしている場合、2024年に集まった寄付金をその年で使い切らずに何年にもわたり支援することは可能だそう。

中長期的な支援の難しさと人材育成の視点から考える


モチモチトークが開催されたのは能登半島地震から約1カ月半が経過していた。急性期と緊急期の状態が落ち着き、復旧期へと移行している時期から復興期に向かって動いていく今後、どのような支援が必要になってくるのか。

実際に被災地に視察にも行かれた永井さん。肌感覚として支援がまだ十分でないと感じていた。インフラなどの物理的な復興はプロフェッショナルに任せ、財団の性質上、震災を機に市民活動や地域活動のために立ち上がった人たちが育っていくような助成したい。そういった人材を育てていくことが中長期的にみると、地域作りや活動につながると考える。震災では高齢化や過疎化など、その地域の課題が浮き彫りになった。今回の地震によってさらに早まる可能性も懸念されている。「向き合うべき問題なのはわかっていても、待っていても誰かが計画を立てて解決してくれるわけはない。考えて行動するのは市民の皆さんであってほしい。」

人材の流失は、まちづくりを再考する能登において大きな損失だ。避難が長期化するとなかなか戻ってこれなくなることもある。また、まちづくりのときも防災を意識して外観を変えてしまうのか、昔を再現した街並みを取り戻すのか、行政と市民が一緒に考えていく必要がある。東日本大震災のとき、お互いの対話を重ねてまちづくりを行った地域は現在の街並みを含めて住民の満足度も高い。まちづくりは行政と市民の信頼関係が欠かせない。フェアに話し合いを進めていける環境作りを手伝えたらお互いが納得した形になるだろう。

まとめ


個人単位で募金や寄付をできるシステムがあることは知っていたが、ほくりくみらい基金のように地域のために使えるお金を集め、使い方から一緒に考える仕組みをもった団体が石川県にあるという事実を知らない人も多いのではないだろうか。

個人の小さな活動でも支援、応援してくれるコミュニティ財団をうまく使いながら、市民のみんなで社会の問題解決をしていける方法があると聞いて、未来は明るいと思えるようなトークだった。

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話し手
永井 三岐子 氏(公益財団法人ほくりくみらい基金 代表理事)

聞き手
福島 健一郎(ITビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、アイパブリッシング株式会社 代表取締役)

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