企業取材レポート

レポート

株式会社金沢エンジニアリングシステムズ

話し手:製品企画部兼開発部 部長 小林 康博 氏

株式会社金沢エンジニアリングシステムズ

市内のものづくり企業の独自の技術や取り組みの情報を取材し発信することで、市内企業及びものづくり産業の発展につなげることを目指す企業取材レポート。

第5回は、「株式会社金沢エンジニアリングシステムズ」。聞き手は、村田智ディレクター。

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株式会社金沢エンジニアリングシステムズ(以下、同社)は、組み込みソフトウェア、例えば、車載システム、自動搬送車、デジタル家電、画像処理システム、IoT関連製品などを中心に、ソフトウェアの受託開発事業をおこなっている企業だ。

「IoT」黎明期からの取組み

いま注目を集める「IoT」(モノのインターネット)は、現在のように各種メディアで頻繁に目にする以前から、同社の主業務である受託開発においては当たり前の技術だったそうだ。そんな中で、「これからは自社製品に力を入れていく」という方向性に伴い、3年前から本格的に「IoT」という言葉を打ち出すようになったとのこと。
同社はハードウェア開発エンジニアを持たず、ソフトウェア開発エンジニアがほとんどを占める組織となっており、特に、IoT商品に関しては、IoTのエッジ側(ユーザー・機器に近い側)のデバイスをつなぐような役目を果たす「ゲートウェイ(ネットワークとネットワークの接続機能)」のソフトウェアを得意としている。エッジ側の開発は、他のいろいろな企業と連携しており、ゲートウェイのハードウェアも、北海道の企業と連携しながら、顧客によって異なるゲートウェイの接続先や中身に応じて同社のIoT技術を活かしている。

課題解決型のアプローチをエンジニア自ら行うのが特徴

小林さん曰く、「開発は、課題を解決するためにはどうしたら良いか」というアプローチから入ることがほとんどで、全くのゼロから開発することは少ないとのこと。
一般的な企業には営業企画、開発、製造といった様々な部隊があるのに比べ、同社は百数十名の社員のうち、2名の営業部員以外はすべて開発エンジニアであることが大きな特色だ。そのため、エンジニア自身が直接顧客の要望を聞いて開発することも珍しくない。

9割を超えるリピート率を誇る開発力

「顧客からリピート発注されることが圧倒的に多く、新規顧客でも他社からの口コミや紹介による開発の注文がほとんどです」と胸を張る小林さん。というのも、「この案件ができるのだから、こんなこともきっと可能なのでは」と紹介されるケースが多いからだという。「ソフトウェアのことはよくわからないけど、こんなことを解決したい」という方が多く相談に訪れるそうだ。
対外的な仕事に関わる小林さんは、開発エンジニアばかりが在籍している同社においては異質な存在だと思われることが多いという。確かに、取材当日も小林さんのコミュニケーションにはエンジニアらしからぬテンポの良さがあり、驚かされた。そのため、小林さんと話をしたことがある方の中には、小林さんのような対外的なタイプの社員が多いと思う方もいるらしいが、実際は開発業務を専門にしているメンバーも揃い、確かな品質を担保するピラミッド構造がしっかりとできた会社だとわかる。小林さんは、今後さらに多様な人材が出てくれば、より会社が活性化されるのではないかと期待もしているそうだ。
また、元々外部に開かれた雰囲気の会社でないこともあり、地場の人たちにも十分に認知されておらず、メーカーからの受託開発がほとんどであるため、ベンチャー企業などの個人事業主が訪ねてくるといったケースはまだまだ少ないようだ。

黒子として日本産業を盛り上げる

受託開発は、日本の産業の下支えをしているところであるが、表舞台に出ることは少ない。特に、組み込みソフトウェアはハードウェアの中に入るものなので、例えば、メーカーの自動車は知っているが、その自動車に採用されているコンピュータがどう使われているのかは知らないし、知る必要もないといった具合だ。そういった中で、プログラムはさらに見えない部分なので、それをあえて全面的に出すことがないのは想像できる。さらには、メーカーとNDA(秘密保持契約)を結んでいて公表できないということも大いに関係している。
そんな背景もあり、ホームページを見ても、専門的で何をしているのか理解できない方が多いのではないだろうか。「これは我々が開発に携わったからこそ、世界初のものとして世に出せた製品だ」と誇れるものはあっても、同社からリリース情報はせず、黒子として世界と戦っている。

アイデアコンペや異業種とのマッチングで受託開発の枠を超えたことで生まれたもの

これまでは、同社から営業するのではなく、口コミの広まりによる受注ばかりだったが、リーマンショック以降、営業部員を配置し外にも目を向け出した。
今は、人材の確保が難しく、いかに優秀なエンジニアを確保するかが企業の成長を左右することになる。同社がここ数年で公に打って出て事業展開をしたこともあり、採用に関しては優秀な人材に恵まれているという。素晴らしい会社に成長している半面、もっと自社製品をつくっていこうとするチャレンジ精神がもっと欲しい、小林さんはそう感じている。そのため、今後はチャレンジングな人材を育てて活気のある会社にしていきたいと考えている。
具体的な取り組みとしては、年に一度、社内でアイデアコンペを開催し、そこから生まれたアイデアに影響され自社製品の開発に取り組む社員が出てきた。「もっとチャレンジングな仕事をして、みんなで成長していこう」という方針を掲げ、自社製品をみんなでつくっていく流れが徐々に生まれてきた。冒頭の「ゲートウェイ」が誕生したのも自社製品への想いからの発想であった。
「今年は『ウェアラブル元年』といわれている。注目を浴びつつあるウェアラブルデバイスを使った遠隔監視システムにも既にチャレンジしているが、今後、爆発的なヒット商品となるかは計り知れない。だがこれからも先端技術を追い求めたい」と意気込む。

取引先一社に依存せず、独立した企業の強みを活かす

同社ならではの大きな強みもある。独立系の企業ゆえ、一社にぶらさがっていない。そのため、様々な企業から声を掛けられ、技術が集まる仕組みになっており、その強みを活かした自社製品開発や受託開発ができる環境に恵まれている。現在の自社製品開発は受託開発に比べて比率はまだまだ少ないが、「本気で開発して、本気で世に問うという姿勢がないと自社製品開発は難しいですね。自社製品の出来を見て受託開発に繋がることもある。自社製品と受託開発との連携も可能ではないか、多くの受託開発で培ったノウハウを自社製品に活用できないかと、相乗効果を狙うための知恵を絞っています」と、小林さん。
開発エンジニアしかいないことが一番の強みである半面、開発以外のところは弱みであるそうだ。販売網や、保守点検サービスに関わる部隊を有していないため、それを補ってくれる他の企業と連携する必要性を常に感じている。例えば、組み込みソフトウェア開発という立ち位置からいくと、デバイスを制御して、クラウドに上げることがIoTでは得意分野。しかし、クラウドの先にある、消費者に近い部分(ユーザーサイド)のサービスを考えるのはあまり得意ではない。
そんなことから、異業種とのマッチングが重要となっており、ニーズを持っていても実際にどう形にしていいのかわからないといった異業種、特にサービス側の企業と同社でタッグを組むことが一番のポイントとなっている。実際に、サービス側の企業と組み出してから、色々な事業が動き出したそうだ。

エンジニア向け交流会を立ち上げ、ビジネス拡大を試みる

エンジニア同士の交流と組み込みビジネスを活性化させたいという想いから、小林さんは「組込みエンジニアフォーラム」という会を立ち上げて、ITビジネスプラザ武蔵で定期開催することも試みている。この会には数社から組み込み系のエンジニアが参加しているが、会社の数としてはもっと多いはずで、まだまだ情報をリーチできていないとのこと。そして、「IoT系、組み込み系で何かをしたい」というテーマであれば、多くのエンジニアが集まるが、「何かオープンイノベーションをしよう」といった漠然としたテーマでは、盛り上がりや実現性が難しいと感じているそうだ。なぜなら、一企業の組み込みエンジニアは、その機器に関してはスペシャリストだが、保守的な人が多いためだ。その視野をできるだけ広げるための場として、フォーラムを立ち上げたとのことである。
「当社の場合はお客様の情報を出せないことが多い。そのため、具体的な仕事内容を話すことができない。すると、会話が盛り上がらないこともあるんです(笑)」と小林さん。ただ、小林さんのバックには120人のエンジニアがいると思えば、「一緒に仕事がしたい」「組み込みを盛り上げたい」と志がある方なら、参加に大きな意義があるといえる。
組み込みの産業そのものが「組込みエンジニアフォーラム」を中心に広がっていけば、「あの会社に頼めば何かつくれるかも」「あそこはいろんな会社と仕事をしていて、しかもリピート率が高い」というような口コミから、今後の開発ビジネス全体のさらなる広がりが期待できそうだ。

株式会社 金沢エンジニアリングシステムズ

聞き手・文

村田 智(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社MONK 代表取締役)

◆株式会社 金沢エンジニアリングシステムズ
1988年創業。ECU(エンジンコントロールユニット)、カーオーディオ、カーナビゲーション、車載バッテリー制御、液晶モニター、デジタル家電など、車や電化製品、デジタル機器の性能を支える組み込みソフトウェアや、制御系アプリケーションなどの開発を手がける。金沢を拠点に、北陸の企業のみならず、首都圏や関西のメーカーからの開発依頼が多く、高い実績を誇る。

(取材日:2017年9月27日)