企業取材レポート

レポート

農業生産法人 有限会社 かわに

話し手:代表取締役 河二 敏雄

市内のものづくり企業の独自の技術や取り組みの情報を取材し発信することで、市内企業及びものづくり産業の発展につなげることを目指す企業取材レポート。

第11回は、「農業生産法人 有限会社 かわに」。聞き手は、村田智ディレクター。

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農業生産法人 有限会社 かわに

親の背中を追いかけ、3代目として農業の道へ

将来は農業をやろうと、大阪の大学の農学部農学科に進学したのが38年前。350人の同級生の中で、専業農家は自分だけだったため、まるで天然記念物のような存在だったことを今も覚えているという。同級生たちは農薬会社や医療会社、化学薬品会社などへの就職を決め、農業に就く者はいなかったため、「これで俺の天下だ」と思ったそうだ。しかしながら、大学4年の時に両親に「農業をさせてほしい」と申し出たものの「これからの時代は農業じゃない、会社員になれ」と猛反対。両親の働く姿を見て育ったこともあり、どうしても農業をしたくて、3ヶ月ぐらいかけて説得した末、「自分たちと違う農業を模索するなら」という条件付きでようやく就農が認められた。

数字に基づく、新しい農業経営の在り方を習得

大学卒業後は「新しい農業とは何か」を考えていた折、石川県の農業政策を担当していた課長との出会いがあった。それまでは「農業は気合と根性だ」と考えていたが、「数字を分析して、数字で経営することが、これからの新しい農業」と教えられたことで、意識が変わったという。当時はすいか、大根、さつまいもの栽培を手がけていたが、その方から各10a(300坪)あたりの労働時間を問われても「僕らは農家なので働けるだけ働く。あとは技術」と考えており、自分の労働力を経費として捉えていなかった。そうした姿勢を改め、労働力を調べて、農作業日誌をつけ始めると、分析することによって、何のどんな経費を抑える必要があるかがわかり、現状を把握しないと改善ができないことにも気づいたという。

その2年後、経営コンサルタントから農業経営を学ぶことになった。当時、農家は利益を出さないように調整し、税金を払わないことが当たり前で、一緒に学ぶ15人の農家のうち黒字経営をしている人はいなかった。それに対しては「あなた方が今朝通ってきた道路は国民の税金で成り立っている。税金も払えない者が、よく恥ずかしげもなくここまで来られたものだ」と怒られた。「私はこれから実践的な農業経営を教えますが、3年以内で黒字にする者だけ残りなさい。やる気のない者には教える必要がないので帰りなさい」と言い切るほど厳しい指導のもと、必死に学び続けて、30歳の頃には数字という数字はとことん把握することができるまでになった。

1ヶ月に投入できる労働時間がどれだけあるのか、何をどれだけ、いつ定植し、いつ収穫すればよいのか、自分の保有している田畑の面積の最大の売り上げや営業利益を試算するシステムも、数字を把握することで導入できた。

阪神淡路大震災での悔しい経験から、さつまいもの加工をスタート

平成7年1月、阪神・淡路大震災が起き、当日すぐにさつまいもを被災地に送ろうと手配したものの、火を起こせないため、生のさつまいもは支援物資にはならないと言われて愕然とした。震災後1週間が経ち、神戸の友人と連絡が取れたため、荷物や現金、つなぎ、ヘルメットなどを持って現地に向かった。木造住宅はすべて壊れていて、あちこちで被災者がたき火をして寒さをしのぎ、壊れた家から取り出したアルミホイルにさつまいもを包んで焼き芋にしていた。

大学の時にボランティアを経験したこともあり、被災者は冷たい食べ物、飲み物しかとっていないことをよく知っていた。その点、焼き芋は栄養がとれるし、温かい。お腹が減っていない人はカイロ代わりにもできる。生のさつまいもで支援しようとしていたこと自体が間違いだったと改めて思い知らされた。そこで今後、何かあった時には確実に人の役に立てるように、さつまいもの加工をしようと決意。その半年後の平成7年7月3日に「有限会社かわに」を立ち上げた。

農業生産法人 有限会社 かわに

「消費者の口にいかに近づけるか」まで考えるのが農家の仕事

同社では、農産物の収穫量ではなく、品質を重視している。通常、農産物を加工するのであれば規格外のもので十分だと考えられがちだが、当然おいしいものをつくらないと、いい加工品にはならない。収穫量を追い求めながら、おいしいものができる方法があればそれでいいが、今の五郎島金時のつくり方だと、収穫量に特化すれば2倍の収穫量を得ることができるが、おいしくはならないという。生産者と加工業者とは考え方が異なっており、同社ではあくまでもおいしいものを追い求め、それをしっかりと加工するという姿勢を貫いている。

その根底には、農家としての確固たる信念がある。農家の仕事は、「生産してただ市場に出すこと」ではなく、「生産してそれを最終消費者の口にいかに近づけるか」。そこまでが本来の農家の仕事だと河二社長は考えている。自分たちのつくったものを、焼き芋やお菓子などいろいろな状態に加工し、商品のネーミングやデザインも考える。そうした同社の仕事は「二足のわらじ」と言われることもあるが、すべてはお客様の口に近づけるためだ。

デザインの方は、かつて自身でデザインしたことがあるが、全く売れなかった経験を持つ。さつまいものお菓子を買う大半は女性なので、男性の気持ちを入れても通用しなかったと当時を思い出して苦笑いだ。現在は、他のスタッフがメインとなって、外部デザイナーとともに皆でアイデアを出しながら進めている。

また、同社も所属する石川県の農業組織「アグリファンド」のメンバーが力を入れているのが、さつまいも掘り体験など、消費者向けのイベントである。まずは農業を知ってもらいたいし、農業の応援団をつくりたいと考えている。なによりも食育の重要さを感じるし、一般の方たちがどうしたら喜んでもらえるかということを、直接知ることができるメリットもあるという。

「祖母の時代には、五郎島地内できゅうりやナス、すいか、さつまいもなどを生産し、リヤカーで運んで現金化した。冬場になると、干した大根を持っていき、お客が持ってきた桶に漬物を漬けてあげて、加工賃をいただいた。その収入によって父を育て上げ、家計を助けてきた。それが本当の農家の姿だと思う。今ようやく、自分がそれと同じ農業ができるようになったといえる。時には『おいしかった』『おいしくなかった』とのお客様からの直接の声を聴ける面白さは、加工と販売を始めなかったらわからなかったこと」と語る。

農業生産法人 有限会社 かわに

五郎島の農業発展のためにチャレンジし続ける

五郎島地区の農家は、比較的平均年齢が若い。そんな中で、昨年と一昨年、ある専業農家が高齢のため農業を辞めたが、20~40代の若いメンバーで残された農地をカバーすることができなかった。生産したくても、面積が増えた分、労働時間がかさんでしまうからだ。人材不足ゆえに、生産を拡大することができず、現状維持か、縮小に向かってしまう現状がある。

「かわに」を農業法人化した一番の理由は、会社形式にしてスタッフに社員となってもらい、給料、ボーナス、退職金制度と、勤務条件を整えるためだった。そうしないと人材を確保できないと考えたからだ。高齢化がますます進んだ時、若いメンバーが営農規模を拡大できるよう、将来的に同社として五郎島全体をカバーできるぐらいの力を持たないといけない。営業利益を上げて、スタッフの実力に応じた給与や賞与などのシステムをしっかり確立していきたい。と、将来を見据える。

加工品の販売については、まだ金沢駅構内「あんと」の1店舗しか展開していないが、今後は何店舗か増やし、将来的には、畑のど真ん中にも店舗を構え、加工場もあり、店舗もあり、常に農業体験ができるような、観光農園のようなスタイルを五郎島エリア全体でやっていきたいと考えているそうだ。
最後に、失敗を恐れず、チャレンジを続けていくという志は、すべての社員たちに伝え続けている、と語ってくれた。

聞き手・文

村田 智(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター、株式会社MONK 代表取締役)

◆農業生産法人 有限会社 かわに
さつまいも、すいかを手がける、3代続く生産農家。農業の可能性を追求し、平成7年に有限会社を設立。肥料に米ぬかを使用し、味を重視した栽培方法を行う。収穫した五郎島金時を使った、焼き芋や焼き芋ペーストを製造販売するほか、金沢百番街「あんと」内に「農家屋かわに」を出店し、スイートポテトの「農家屋ポテト」やバウムクーヘンなどのお菓子を販売し、人気を博す。農業者と和菓子業界の協業により活性化を目指す「農菓プロジェクト」の代表を務め、石川の食文化を盛り上げる。

(取材日:2017年2月9日)