企業取材レポート

企業レポート#14

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Konel.kanazawa クリエイティブディレクター 代表取締役 宮田 大さん

コネル カナザワ

【プロフィール】 2018年4月、WEB・映像・グラフィック・イベントなどで企業のマーケティング活動をサポートするクリエイティブカンパニー「Konel.kanazawa」を設立。東京・金沢を中心としたクライアントワークを手掛ける一方、雷をリアルに表現する地球儀、脳波で作曲できるデバイスの開発、おやつシリーズをプロデュースするなど自社プロジェクトも積極的に展開している。

コネル カナザワ
「大喜利印刷」

枠にとらわれず、働き方もアウトプットも「ボーダレス」

企業のマーケティング活動をWEB、グラフィック、映像、イベントなど多岐にわたってサポートするクリエイティブカンパニー「Konel」(東京)。そのクリエイティブディレクターとして活躍してきた宮田大さんが金沢拠点として「Konel.kanazawa」を立ち上げたのは2018年4月のことだ。

金沢に拠点を置くとはいえ、「Konel.kanazawa」が手掛ける仕事の7~8割が東京の案件である。東京にいるクライアントであっても、インターネットやテレカンを駆使することで、金沢にいながらにして東京案件のクリエイティブを遂行しているのだ。

「欲望を形に。」というコーポレート・ビジョンが示す通り、「Konel.kanazawa」の特徴はクライアントの真のニーズを見極め、クライアントにとって最善のカタチを生み出していくクライアントワークにある。

たとえば以前、全国の印刷会社の組合連合会から「広報誌を作ってほしい」という依頼が来た。「Konel.kanazawa」にとって、広報誌の制作はお手の物である。しかし、だからといって決して流れ作業的に制作したりはしない。クライアントが本当に達成したいことは何か、真のニーズを探ることでアウトプットは柔軟に変化していく。

宮田さんはヒアリングを重ねるうち、「WEBが台頭するいま、印刷に従事する人のモチベーションを上げたい。印刷が本来、クリエイティブな仕事であることを見せたい」という、クライアントの真のニーズを探り当てる。クライアントが本当に欲しかったのは、必ずしも広報誌でないことが分かったのである。

そこでクライアントがツイッター上にある「欲しい」のつぶやきをお題に、印刷廃材を使ってソリューションを行う「大喜利印刷」を提案した。こうして「バレずに早弁したい」というお題に応えた辞書と一体化した弁当箱、簡単にできる「パラパラまんがマシン」など多彩なアイデアが参加企業から集まり、「クリエイティブな印刷」をカタチにして見せたのだった。

コネル カナザワ
Product #01_雷玉 LIGHTNING BALL

スタッフの欲望もカタチにする自社プロジェクト

その一方、カタチにするのは何もクライアントの欲望ばかりではない。スタッフの欲望も面白ければ自社プロジェクトとしてカタチにしてしまうのが「Konel」の流儀だ。

「不便がなくなると、工夫をしなくなる。
不条理がなくなると、疑問を持たなくなる。
不意をつかれなくなると、驚かなくなる。
ヒトが退化しないためには、多様な『予定不調和』が必要なのではないか」

そんな思いからスタートしたのが実験プロジェクト「UN_」だ。プロジェクトではNASAの観測データと繋がった地球儀「LIGHTNING BALL」のプロトタイプを制作。複雑な気象情報から「落雷」のレイヤーだけを抽出し、リアルな雷を再現する地球儀はアートとテクノロジーが融合した斬新な「家電」としてカタチとなった。

さらに人間の脳波を測定して音楽を作るプロジェクト「NO-ON」も社外のアーティストと協業して手掛けた。人間には言葉にならない感情がある。たとえば自然の美しい風景を見た時、適切な言葉が見つからず、言葉を失ってしまう瞬間がある。そんな時、脳波を測定して内発的に音楽を作り出すことはできないか。それが「NO-ON」の発想の出発点だった。宮田さんがクリエイティブディレクションを行った「NO-ON」は電子音楽 × デジタルアートの祭典『MUTEK』に出展され、高い注目を集めた。

このほか、擬声語「オノマトペ」をテーマにしたおやつシリーズ「オノマトペのおやつたち」を開発。石川県白山市のお米農家をはじめとする全国の生産者と提携して、食べることそのものが楽しくなる自社製品をリリースし、好評を博している。

コネル カナザワ
NO-ON Brain Music

自社プロジェクトでブランディング

一般消費者を対象とした「オノマトペのおやつたち」を除くと、「UN_」にせよ、「NO-ON」にせよ、即座にビジネスには結びつきにくいプロジェクトである。宮田さんは「こうした自社プロジェクトには費用も時間もかかっているが、投入したリソース以上の対価を生み出している」と語る。

自社プロジェクトの成果物をイベントなどで披露すると、興味を示す企業が少なくない。その際、「Konelではこうした自社プロジェクトだけでなく、クライアントワークも行なっています。」 と伝えることで、ビジネスが成立していくことも少なくないという。

繋がるのは、クライアントだけではない。成果物を見たクリエーターが「一緒に何か面白いことをやりたい」と集まってくるのだ。

「Konel.kanazawa」のスタッフは現在、5名。成長するためには人材というリソースが欠かせない。自分たちの強みや特徴を自社プロジェクトで分かりやすく伝えることで、クライアントはもとより、新たなクリエーターの呼び水ともなる。「コネル金沢」にとって、自社プロジェクトはブランディングそのものであり、そのブランディングが豊かなクリエイティブを生み出す源泉、成長の推進力ともなっているようだ。

コネル カナザワ
「オノマトペのおやつたち」

「0.1のアイデア」を試す実験場を開設

「Konel.kanazawa」では、よりよいクリエイティブを生み出すために仕事をする環境整備にも余念がない。スタッフ5名のうち、WEBディレクターとデザイナー、カメラマンはフリーランスや、WEBデザイン会社の代表を兼任するなど、パラレルワークでの参画。一つの会社に縛られない、より感度の高いクリエーターが集うことで、クリエイティブの幅を広げている。2018年6月に立ち上げた、町家をリノベしたオフィス「東山FACTORY」では県外のクリエーターも利用できるよう整え、互いが刺激し合える環境を構築した。

「Konel」の東京オフィスが2019年、日本橋に移転。それに伴って7月、オフィス地下に「日本橋地下実験場」を開設する。宮田さんは開設の意図を次のように説明する。 「新規事業をスタートアップするには『0』から『1』を生み出すことが必要。しかし、いきなり『1』というのはハードルが高い。なので、日本橋地下実験場ではコネルや社外のクリエーター、あるいは企業が『0.1』のアイデアを試す場所にしたいですね」。

「日本橋地下実験場」では各種機材を配置し、エンジニアも常駐。企業や大学が持つ技術をさまざまなステークホルダーに繋げる「知財問屋」の機能も担っていくという。世の中にない製品やサービスを創造し、新しいビジネス領域を開拓する実験場となるに違いない。

コネル カナザワ