企業取材レポート

レポート

有限会社ユーアンドゆ

話し手:統括部 坂本 晃さん

市内のものづくり企業の独自の技術や取り組みの情報を取材し発信することで、市内企業及びものづくり産業の発展につなげることを目指す企業取材レポート。

第1回は、「有限会社ユーアンドゆ」。聞き手は、村田智ディレクター。

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首都圏から販路を広げる「金沢五彩ICE POP」

金沢五彩ICE POP

応接室に通されるまでの間に、幾人もの忙しく動き回る従業員さんとすれ違う。あまりに忙しそうなので、「本当にお忙しいところ申し訳ありません」と、取材陣の私たちも思わず声が出たほどだ。

取材を始めるとその理由がすぐに理解できた。取材時点(平成29年5月22日)「金沢五彩ICE POP」は、お中元商戦納品の締めを控え、何台もの冷凍庫に生産備蓄している状態。今年は、百貨店の『三越伊勢丹』『高島屋』『丸井(OIOI)』をはじめとする大手百貨店、家庭画報などの出版で有名な『世界文化社』、『千趣会(ベルメゾン)』、高級スーパー『成城石井』のカタログギフトなどに取り上げられた。いずれも、カタログや誌面の主要ページの先頭に大きく掲載されており、各社の商品に対する期待がうかがえる。また、コンビニエンスストア『ナチュラルローソン』では店頭販売もスタートした。「納品できるか心配だが、嬉しく思っている」と取材にご対応いただいた坂本さんも嬉しい悲鳴を漏らす。

最初のブレークスルーは食品卸会社『国分グループ本社』との取引だった。まだ商品が完成していない状態にもかかわらず、東京のバイヤーズ商談会に参加し、単品カタログのみでプレゼンしたところ反響があり、取引につながった。”プレゼン時は商品ができていなかった”という点が面白い。最初の取扱いがスタートした『マルエツ』の新店舗である晴海三丁目店で、平成28年3月18日オープンから3月末日までのPOSレジ集計結果では、大手のアイスクリーム商品など340品種を抑えて金沢五彩ICE POP「フルーツミックス」が見事売上トップに。しかも当時展開していた5品種すべてがトップ10に入ったというから、この商品がマーケットに与えたインパクトは大きい。そこから火がついて、地元テレビ局や「日経トレンディ」などのマスコミにも取り上げられ、一気に認知度が上がったという。

「地産他消」という販売戦略

発売にあたり、商品に自信はあったが、坂本さんは「石川県や金沢市では売れないと思った」そうだ。なぜなら「風呂屋が作ったアイス」というだけではブランド力がないし、ネームバリューがないからだ。よく「地産地消」という言葉を耳にするが、逆に地元であることで価値が見いだされにくいことのハンディを強く感じたことから、1年目のマーケットは東京と決め、各スーパーなどの本社へ営業に回った結果、取引先は昨年の11社から、今年は2月末現在で36社となり、3倍以上に増えたとのこと。今後は関西へも進出し、「東京と大阪に加え名古屋もターゲットに入ってきている」と売り込みの姿勢を緩めない。
「石川でもいいものがいっぱい開発されていることはよく知っているが、マーケット戦略がないから広がらない。職人の考えだと、いいものは受け入れられるはずなのに、なぜ買わないのかと思いがちだが、何が違って何が素晴らしいかをきちんと訴えなきゃだめだと思う。マスコミや宣伝など訴える方法はいろいろあるが、それも一過性のもの。ブランド力を高めないといけないという思いがある。石川県は、首都圏で認知されたものは受け入れられやすいが、一方で、自分で発掘することには弱い県民性なのかなと思う」
坂本さんのこの言葉を聞いて、なるほどなーと考えさせられたのは言うまでもない。

新たな殺菌法を独自開発したのが成功のカギ

聞くと、「金沢五彩ICE POP」は、すべて手作りのため量産ができない商品だそうで、一本一本丁寧に作られている。「果物や野菜をダイレクトに食べられる」アイスは、これまでありそうでなかった商品であり、そこがお客様に評価されているのではないかと坂本さんは感じている。というのも、厚生労働省の基準では、氷菓の原料は68度で30分間加熱殺菌するか、それと同等の殺菌効果のある方法で殺菌することが基本とされていた。しかし、この商品を食べてほしいのは、特に授乳中の方、そして子どもにも安心安全なものを食べさせたいと考える子育て中のママ。それから、まだまだ元気だけど、健康に過ごしたい年配者も。果物や野菜の味や栄養をそのまま摂ってもらいたいという思いから、栄養素が失われる加熱殺菌や、薬品を使う殺菌方法は使いたくなかったという。

そこで、坂本さんたちは独自の非加熱殺菌方法の確立に着手した。厚生労働省にも直接赴き、検査結果書類や指示された書類をその都度揃え、都合6回ほど通ったそうだ。その甲斐もあって新たな殺菌方法が認められ、アイスクリーム類製造業の許可を受けて、この商品がようやく世の中に出回るようになった。平成28年3月1日に発売をスタートさせ、斬新な商品開発と裏付けのある殺菌効果が評価され「金沢かがやきブランド」などに認定された。

お風呂屋がアイスの開発にいたった経緯

金沢五彩ICE POP

個人的に坂本さんに興味が湧いた。前述の「地産他消」マーケット戦略もそうだが、普通は「ほかに認められた殺菌方法はない」と言われると、そこで開発はストップしそうだが、坂本さんはそこであきらめないスピリッツを持ち合わせている。
坂本さん自身は別の企業を退職後、同社に入社して、銭湯は経営が難しい業種だとわかったそうだ。家庭に風呂があることや、若い人が銭湯離れしていることが大きく、そんな中でもなんとか活性化させたいと考えた。そこで最初にアイディアを出し、手がけたのが生鮮市。入浴しに来ている生産者の方に直接「マーケットをしませんか」とお願いし、店舗の1階で販売したところ、口コミで広がり評判が高まった。お風呂のついでに買い物ができるとあって、特にお年寄りに喜ばれた。その後、2階の休憩室を利用して、8種類の健康的なスムージーの販売にも取り組み始めたそうだ。

そんな頃、当時石川県が世帯別の年間アイス消費量が日本一であるという県民性を知った。どこで購買・消費されているのかを出入りするアイス業者一人ひとりに尋ねてみると、コンビニやスーパーかと思いきや、年中安定した売上先は銭湯などの温浴施設だと知って驚いたそうだ。スーパーでは、5~8月の4カ月以外は売り場面積を3分の1に減らすなどの調整が行われ、そこで売り上げが半分以下になるのだという。一方、温浴施設は、冬でも夏でも、入浴後冷たい牛乳が飲まれるようにアイスも安定した消費を得られるのだ。

ならば、「お客様が望むところで望むものが提供できれば、喜んでもらえるサービスになる」という軽い気持ちから、せっかくスムージー用の新鮮な材料があるのだから、凍らせてみたらどうか、と進んでいったのがきっかけ。とはいえ、果物は味だけでなく、食感と風味も重視したかった。「金沢五彩」という製品名の基になったのがラインアップの一つ「フルーツミックス」。りんご、キウイ、グレープフルーツ、オレンジ、ブルーベリーの5つの彩りということで「五彩」と名付けた。
ここでも、お客様の「ニーズ」の把握からスタートしたことが成功の秘訣だ。

製品づくりへのこだわりと工夫

金沢五彩ICE POP

製品はとにかく健康を意識していて、中でも一番心がけているのは減糖。例えば、480円の「ルビーグレープフルーツ」は、1本につきルビー2玉を使う。1.5玉を果汁にして、0.5玉は皮をむいてダイスカットし、水は一滴も入れない。糖は、オレンジをスライスしたものを一晩ビートグラニュー糖に漬けこんだものだけを使っているというこだわりぶりである。
主力の「フルーツミックス」は何本も食べ比べ、食べ進む素材の順番も吟味した。かじった時の素材の風味、飽きないインパクト、すっきりした後口。ほとんどのアイスは食べた瞬間甘さを感じておいしいが、中だるみをして、なおかつ最後は水が欲しくなる。甘味料が大量に入っているためだ。特に子どもには、単に甘いからおいしいというものではなく、それぞれの果物の持つ甘みと酸味を感じてもらいたい。そこで、りんごをかじって果物を感じ、次にキウイの酸味、オレンジの香り、グレープフルーツの淡い酸味が続き、最後にブルーベリーの甘味で締めるというふうに、食べ進むたびに味や食感が変わるよう、並べる順番を決めたそうだ。

また、流体物に固形物を整列させることは大変な作業だが、常に果物が中心に来るよう、美しさにもこだわって作っているとのこと。食は、口で味わうのが50%、目と鼻で味わうのが50%で、視覚でおいしそうと感じ、次に口に入れた時のおいしさがマッチングしてはじめて消費者の期待を超えるものになるという考えからだ。コンビニやスーパーなどの店頭に並ぶのは、瑞々しさを強調したシズル感のあるパッケージがほとんどだが、袋を開けて中身を見てがっかり、口に入れてまたがっかりとなることも多い。同社でもシズル感を大切にしているが、中身そのものを見て買ってもらうために、あえて箱には入れず透明パッケージを用いている。

旬のおいしさが楽しめるアイスを

最後に、坂本さんに今後の抱負について聞いた。
「良さをわかっていただけるお客様は限られても、ちゃんとした商品がちゃんと伝わってほしい。現在、りんごは小立野産の秋声、ブルーベリーは柳田産、キウイは野々市産を使用しているが、ルビーグレープフルーツは地元産のものを使用できていない。すべて金沢産、石川産にしたかったのだが、5~7月の時期には採れたてのりんごやキウイ、ブルーベリーも手に入らない。
それならば「五彩」の名を守り、今後は春夏秋冬ごとの素材を入れた4パターンの商品をつくりたいと考えている。例えば、高松のシャインマスカットや、粟崎の五郎島金時、鶴来の雪中人参、加賀の打越茶、能登大納言、ルビーロマンなど。その時に採れるもの、生産者の顔が見えるものでやりたい。ただし、これだと店売りのみに限られ、ギフト展開は難しくなるが、旬を楽しめるものをぜひつくっていきたい。

地産品にこだわるのは、石川県産のものが特別おいしいという考えからではない。あの町のあの人が作る、あの木のりんごを自分の目で見ることで、お客様に安心を説明できることが大切。冷凍にしたものではなく、旬の新鮮なものをおいしく提供していけば、アイスも通年商品に変わっていくはず。将来的にはそんなこともやっていきたい」

取材終了後、私が若手農家と仕事をしていることを知ると「良い農家がいれば紹介してほしい」と、すかさずお声がけいただいた坂本さんの情熱が印象的だった。

聞き手・文

村田 智(IT ビジネスプラザ武蔵交流・創造推進事業運営委員会ディレクター)

◆有限会社ユーアンドゆ
地域に密着した一般公衆浴場『諸江の湯』『ぽかぽか御経塚の湯』を展開する。「環境事業部」では、温水ボイラーを化石燃料から木質燃料へと転換する、木質バイオマスボイラーシステムの研究・開発・製造・販売を手がける。「アイスPOP 事業部」を新設し、地産品を使用した「金沢五彩ICE POP」の製造販売をスタート。若者や、健康に気を遣う女性などの間でブレイクしている。

(取材日:2017年5月22日)