企業紹介

Vol.3
質の高い消防車を生み出す、つくり手の技と心

消防車の歴史とともに

-ものづくりが盛んな金沢にあって、長野ポンプは、消防車製造という非常にインパクトのあるものづくりをされています。

消防車メーカーは全国に14社あり、年間1000台~1200台が生産されています。当社は、すべての消防車をフルオーダーシステムで、年間60台に限り製作しています。

-昭和9年にポンプメーカーとして創業されたということですが。

実際には大正末から尾張町で看板を揚げていたようです。初代は私の祖父にあたるのですが、若い頃金沢市内のポンプメーカーで働き、ポンプづくりの技術と、ものづくりの精神を学びました。

-町工場から全国展開するメーカーに成長されました。つくり手として、消防車の歴史とともに歩んでこられたわけですね。

古い時代の消防車の写真を見ていると、日本人の技術のすごさを感じます。
戦前から活躍していたのは、薪を使う蒸気ポンプや、手引きのエンジンポンプです。戦後の混乱期は、米国フォード社製の乗用車をベースにした消防車が主流になりました。改造はすべて手作業で、フェンダーやボンネットにいたるまで、職人がたたき出してつくっていました。
最近では、災害の形態が複雑になってきたことから、多目的に使用できる消防車のニーズが高まっています。

人の命を救うことに、命をかける人たちのために

-長野ポンプは、現在、国内の全メーカーが採用している「電磁クラッチ式自動揚水装置」を昭和42年に日本で初めて開発されました。その経緯を教えてください。

ポンプが放水する前には、メインポンプに呼び水をするため真空ポンプを駆動させる必要があります。ところが、従来使われていた駆動装置は非常に不安定で、現場で放水不能に陥るケースが多かったのです。この問題を解決するために、先代社長が考案したのが「電磁クラッチ式自動揚水装置」です。日本初の非常に画期的な発明でしたが、特許は取得せず広く一般に公開しました。「この技術で救える命があるなら」という思いがあったのでしょう。私自身も、経営者は社会的利益を優先するべきだと信じています。

-標準化はせず、フルオーダーにこだわる理由を教えてください。

つくり手のためではなく、使い手のためのものづくりをするため、ということに尽きます。
消防の戦術は、道路の状況や水利など、地域の特性によって異なります。たとえば細い路地が多い金沢の消防車は、人口50万の自治体には珍しく、3トンベースの小型車のみです。1分1秒を競うトップアスリートが、自分専用のシューズやウエアをオーダーするのと同じで、消防車にも、1分1秒を有効に使うための専用設計が欠かせません。
さらに、チーム体制を敷き、全メンバーがひとつの考えを共有しつつ、1台の消防車をつくりあげていることも、当社の特徴です。

-使い手の顔と、使われるシーンが、非常にはっきりしていますね。

消防職員や分団員は、市民の命を救うために命をかけています。私たちも、「義務感ではなく、使命感でつくる」という気概でいます。
私は、社員によく「褒めことばではなく、小言を聞いてこい」と言っています。現場の声を聞くことではじめて、使う人を思いやり、随所に工夫を凝らすことができるのです。

職人の感覚は、ものづくりの豊かさ

-連綿と受け継がれてきた職人技があると思いますが、機械化が進んでいる昨今、技術の継承が課題になっているのではないでしょうか。

当社では、フェンダーをハンドメイドで製作する技は将来に渡って残すべき技術であると位置づけており、今もすべて職人が叩いてつくり出しています。機械を使えば簡単にできますが、手で丸くする技がなくなってしまえば、その技は二度と戻りません。非効率かもしれませんが、そこには目には見えない豊かさがあると思っています。
当社には、NC旋盤ではない、昔ながらの旋盤を駆使するベテランの技術者もいますが、機械と人が一体となって精度を出す感覚は、日本人ならではではないでしょうか。

-「日本人ならでは」を一歩進めて、「金沢ならでは」のものづくりについて、どうお考えですか。

金沢は伝統工芸が盛んで、きめ細かなものづくりが得意な風土があり、「金沢ブランド」が確立しています。私たちも金沢ブランドの名に恥じない、質の高いものづくりをしたいと思っています。
また、金沢で消防といえば、藩政期の「加賀鳶」がよく知られています。加賀鳶は江戸で組織された大名火消しで、明治時代に一時金沢に移り、町火消しに技術を伝えました。加賀鳶の伝統は、現在も市内49の分団に受け継がれています。私たちは、ものづくりの立場から、加賀鳶の伝統文化の一端を担っていると自負しています。

-今後のビジョンを聞かせてください。

近年は救急車やAEDなど医療機器の販売にも参入しています。もちろん、消防車のイノベーションにも継続して取り組んでいます。
ものづくりも、経営も、今変わらなければ、5年後に変われません。常に新しいことに挑戦し、進化していきたいと思っています。

文:河原あずみ、写真:山岸 浩也、動画:松尾 雅由

取材日:2010年8月3日

編集後記

「こんな身近に、消防車を作っている所があった!」ということにまず驚きました。その地域に合わせた消防車の必要性も教えていただき、自分の住む街に消防車をつくる企業があるということが嬉しかったです。
社長のお話では、ものづくりで「使う人や目的のことを真剣に思う」ことの大切さを感じました。古い技術を捨てることで失うものもあり、「一見無駄に見えることの中にも、これからも必要な技術がある」という部分がココロに残りました。(山岸 浩也)

会社概要

企業名 長野ポンプ株式会社
会社所在地
石川県金沢市浅野本町ロ145
創業 1934年
従業員 59名
事業内容 消防自動車の製造・販売、消防用機材の販売、消防設備の・施工・保守、救急車・医療機器の販売
URL http://www.naganopump.co.jp/

社長プロフィール

氏名 長野幸浩(ながの・ゆきひろ)
生年 1962年
経歴 東京の防災関連メーカーを経て97年に長野ポンプ入社。02年に代表取締役社長就任。

手形

このページのTOPへ