企業紹介

Vol.5
優れた工芸技術を現代のものづくりに活かす

藩政期から続く歴史を礎に

-金沢における仏壇、仏具の製造とは、どんな意味合いを持つのでしょうか。

金沢仏壇は、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき伝統的工芸品に指定されています。長年にわたり地域で、多くの作り手の試行錯誤や改良を経て技法が確立されたものであると認められているのです。当社では、仏壇製造をはじめ、寺院や仏壇で敷物として用いられる「打敷(うちしき)」などの仏具、そして寺院本堂(金堂)の内部で、本尊をまつっている空間「内陣(ないじん)」の修理が主な仕事となります。

-作家の五木寛之さんは著書「情の力」の中で、「金沢の古い家には、一軒一軒に仏壇があって、朝晩きちんと拝んでいる人がたくさんいる」と留学生に説いたことを書いています。

金沢仏壇の始まりは17世紀まで遡ります。金沢で仏壇が作られるようになった礎には、室町時代から、この地の人々の間で浄土真宗が信仰されていたことや、加賀藩御細工所から、優れた工芸技術者が育ったことなどがあります。加賀藩が家々に仏壇を持つことを勧め、百万石の豊かな財力を基にした華やかな文化があったことから、金箔や蒔絵技術をふんだんに使った金沢仏壇が作られるようになったのです。

-山田仏具店も歴史あるお店ですね。

慶応年間(1865~1867)に、越中石動の芹川(現在の富山県小矢部市芹川)から、金沢市岩根町(現在の彦三町付近)に移って店を構え、その後、明治5年5月25日に、現在の横安江町に出店しました。昭和48年に有限会社山田仏具店と法人なりし、49年には観音堂に工場を設置しました。主として、堅地塗(かたぢぬり)と呼ばれる漆の重ね塗りと蒔絵技術の手法に特化してきました。店主は私で5代目になります。

住宅事情に合わせた開発も

-マンションに住む方が増え、核家族化など環境の変化で、仏壇の需要も変わってきたのでしょうか。

昭和から平成に移る時期をピークとし、いわゆるバブル経済の崩壊とともに仏壇の需要も、大幅に減りました。金沢仏壇商協同組合では、組合員が出荷する金沢仏壇に証紙をつけるのですが、その数は三分の二程度に下がりました。組合員の数も減りました。加えて、住宅事情の変化もあって、大型の仏壇や高価な仏壇の出荷は全国的にも減少しました。

-新たな取り組みもしているのですか。

ライフスタイルも変化しており、住宅事情に合った仏壇の開発も進めています。「現代仏壇」と呼ぶ厨子(ずし)タイプの仏壇です。フローリングの居間に置いても調和するよう、金具も省き、シンプルなデザインの仏壇制作にも取り組んでいます。

-時代に合わせていろいろな工夫もされていますね。

私自身が好きなこともあって、パソコンを活用して、ご注文いただいた時点でお客様に仏壇のイメージをつかんでいただくようにしています。フォトショップやイラストレーターといったパソコンの画像ソフトを用いて、パーツを合成してお客様に見ていただくようにしています。

500年後に残る仏壇づくりを

-どんなものづくりを目指すのか

まがいものを使わない、本物の仏壇づくりに打ち込みたい。「山田仏具店はこだわっている」といわれるよう、金沢仏壇の中でも率先して「いい」ものづくりに励みたいと念じています。100年後も、200年後も使ってもらえるものを作りたい。条件さえよければ、500年後に残る仏壇を作る自信もあります。

-具体的にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。

蒔絵には銀や錫は使わず、本金のみを用います。耐光性の漆を用い、冷暖房にも湿気にも強い仏壇が理想です。釘を使わず、ステンレスの木ねじを利用することで、すす出し(汚れ落とし)の際に分解しやすいようにします。すす出しにも神経を使います。「すす出しをしたら前よりひどく(状態が悪く)なった」といわれるような仕事だけはしたくありません。私たちはものづくりが主とはいえ、商売です。商売は商品を売るとともにサービスを売ることだと思っています。その場限りの仕事はしないと心に誓っています。

文:加茂谷慎治、写真:木和田里美、動画:相羽 大輔

取材日:2010年10月8日

編集後記

山田社長にお会いした時、最初に目についたのは社長の手でした。爪や手のしわに漆や塗料のついた「ものづくりの手」。仏壇製造は、漆や蒔絵、沈金などの伝統的技法と「真宗王国」と称される金沢の暮らしに根づいた文化を基に、はぐくまれたものづくりだと思いました。日本人のこころにひびくものづくりの担い手としての地道な活動の一方で、Macとグラフィックソフトを使って新しいものづくりに取り組む社長の姿勢には心を打たれました。(木和田里美)

会社概要

企業名 有限会社山田仏具店
会社所在地
石川県金沢市安江町13-32
創業 慶応年間(1865~1867年)
会社設立 1973年
従業員 12名
事業内容 寺院用具製造、寺院用具店、仏壇・仏具製造、仏壇・仏具店、神棚・神具店
URL http://yamadabutsuguten.co.jp/

社長プロフィール

氏名 山田泰造(やまだ・たいぞう)
生年 1946年
経歴 金沢大学卒。金沢仏壇商工業協同組合理事長。伝統工芸士。

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