企業紹介

Vol.7
金沢で育む、小麦粉の品質と、企業の品格

石川県唯一の製粉企業は、創業80年の老舗でした

-80年の歴史を持つ金沢製粉ですが、地元でもあまり知られていないのではないでしょうか。

金沢製粉が作っているものは、パンや麺になる前の「小麦粉」です。当社の製品は、北陸の食品メーカーやパン・菓子店を中心に、全国のお客さまに使っていただいていますが、小売はごく一部しかしていないので、一般の人にはなじみがないかもしれません。

-ホームページもありませんね。

いまどき珍しいかもしれませんが(笑)、製粉という仕事は縁の下の力持ち、見えないところでお客さまを支えたいとの思いがあってのことなんです。

-原料の小麦のほとんどは輸入されていますし、大消費地から離れている点からも、金沢という立地は、不利な点が多いように思いますが。

そのとおりです。しかし、絶対不利と言われる中でも、逆転の発想で有利になる点もあります。たとえば中京地区へのトラック輸送は、金沢発の空き便を利用することで、大幅なコストダウンが図れます。

-創業の経緯を教えてください。

創業者の寺田健次郎は、もともと砂糖問屋に勤めていたのですが、独立して製粉業を興しました。健次郎は事業家としての才覚に長けた人物で、夫婦ふたりの小さな商いから始め、戦後、食糧難からパン食が推進されて輸入小麦の消費が急増すると、さまざまな方の支援を得て東京工場を設けて関東地区に進出しました。小麦粉を口に含んでグルテンの量を判断し、「これは麺用、これはパン用」と、用途を決めていたといいますから、職人的な「舌」も持ち合わせていたのでしょう。

おいしさにもネーミングにもこだわった小麦粉を生み出しています

-ひとことで小麦粉といっても、いろんな製品があります。

複数の種類の小麦をブレンドし、お客さまの要望や用途に合わせた小麦粉を開発しています。現在はパン用、中華麺用、麺用、お菓子用など、合わせて約80種類の製品をラインナップしています。

-主力製品というと?

ホテルやレストランで採用されている高級パン用粉「ローランド」は、1970年から続くロングヒット商品です。当社独自の設備で作る波動小麦粉「サンダーバード」「シーザー」も、小麦粉そのものがおいしいと人気です。

-ネーミングがすてきですね。

こだわっているんですよ(笑)。「アレキサンダー」「シャンボール」「キングアーサー」など、私自身が命名した製品もあります。

-製粉の工程について、教えてください。

原料の小麦は、硬い「外皮」と、その内にある白い「胚乳」に分けられ、小麦粉になるのは胚乳の部分です。
小麦は農産物ですから、草や石などが混入しています。これを取り除いた後、加工しやすくするために水を加えます。 その後、ロール機で数段階に分けて砕き、細かな小麦粉の状態に少しずつ近づけていきます。混じっている外皮は、ふるい機にかけたり、空気の吸引力を利用したりして、取り除きます。

-工場は自動化されているんですね。

スイス・ビューラー社の設備を採用しています。原料をサイロに入れてから、包装された製品が出てくるまで、「エア輸送」を行っていますから、人の手に触れることがなく衛生的です。小麦粉の物性を分析したり、実際にパンなどに加工して適性をチェックする作業は、人が手をかけて念入りに行っています。

金沢っ子に愛される、あの「パン」のヒミツ

-金沢製粉は、「頭脳パン」の原材料である「頭脳粉」を生産している国内唯一のメーカーでもあります。

1960年頃、慶応大学教授の故・林髞(たかし)氏が、「ビタミンB1は頭の働きを良くする」という説を唱えていたことから、小麦粉の付加価値を高めようと、ビタミンB1を多く含む小麦粉の開発に取り組みました。普通の小麦粉100gに含まれるビタミンB1は0.1mgほどですが、「頭脳粉」には0.17mg以上含まれます。
発売当時の大ブームが下火になった後も、伊藤製パン、フジパンがそれぞれ頭脳パンの製造を始めた91年、06年に第2次、第3次ブームが訪れました。今でも毎年、受験期にはよく売れるんですよ。

-金沢製粉の強みは、どんな点にあるのでしょうか。

自信を持って「品質」だといえます。
数年前、世界的に小麦が不作となり、仕入れ価格が高騰したことがあります。当社で多用しているカナダ産の最高級銘柄「1CW」も例外ではありませんでした。自社の利益を守るために、1CWの配合比率を下げるか、製品に価格を転嫁するかと決断を迫られる中で、我々はそのどちらも拒み、品質と価格の維持にこだわりました。

-徹底したお客さま主義ですね。

お客さまに喜んでいただけることが一番です。実際にパンやお菓子を作っていらっしゃるお客さまに、「金沢製粉の小麦粉はいいね」と価値を認めていただければ、それが何よりの営業活動にもなります。安さを競うのではなく、品質を追求していくという信念は、今後も揺るぎません。

文:河原あずみ、写真:谷川 仁弘、動画:松尾 雅由

取材日:2011年1月27日

編集後記

この企画で訪問させていただく企業さんを決めるとき、「頭脳パン」の原材料「頭脳粉(ずのうこ)」を生産している国内唯一のメーカーが地元金沢にあると聞き、本当に驚きました。訪問させていただいて話し上手な寺田社長のやわらかくあたたかみのある話に盛り上がり、特に創業者・寺田健次郎さん、そして金沢製粉さんがここまでこれたのは沢山の人のご縁によるもの。人への感謝の気持ちと「製粉業は縁の下の力持ち、表にでることなくこれからも人との縁を大切にしていきます。」の言葉が心に残りました。そしてもっと沢山の人に金沢製粉さんの事を知ってほしい、そう思える取材でした。(谷川 仁弘)

会社概要

企業名 金沢製粉株式会社
会社所在地
石川県金沢市米泉7丁目54番地
設立 1932年
従業員 35名(2011年1月現在)
事業内容 小麦粉の製造、企画、販売

社長プロフィール

氏名 寺田 匡(てらだ・ただす)
生年 1958年
経歴 富山県小矢部市出身。コーヒー豆の加工販売会社の営業職を経て、1987年に金沢製粉に入社。02年より現職。趣味は映画鑑賞。

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